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2009.11.26 (Thu)

終わりの街の終わり


終わりの街の終わり
(2008/04/24)
ケヴィン ブロックマイヤー

方舟は造られない。
それでも雌雄一対以上が救われる。
人を除いて。

そのとき人には、
二度目の死から逃れる術もない。



【More・・・】

人の世界の終わりを描いた話はたくさんある。
隕石やら戦争やら未知の細菌やら。
いろんなものが原因で世界は衰退し、荒廃する。
それでも、本当に終ることは少ないように思う。
社会や文明が崩壊したとしても、
誰かが生き残ったり、あるいは全く別の新たな世界を築いたりする。
最近読んだものでは「The road」や「最終兵器彼女」がそうだったように。
でも、この話には救いはない。一切、ない。
人はおそらく、死滅した。ある日を境に急激に。
いや、やはり生き残りがいる。南極に一人の女性が取り残されている。
物語は何が起きたのか分からないまま、生きようとして死んでいく彼女の話だ。
そして同時に、すでに死んだたくさんの彼女の知り合いの話。
世界の終わりは、こんな風なのかもしれないと思った。

終わりの街にいるすでに死んだ人々は、普通に生活していた。
彼らのことを覚えている人間が生きている限り。
でも、「終わり」を境にして、街の人口はどっと増え、そしてどっと減る。
そのことを描かれて初めて、人が死ぬことで失われるものに気がついた。
人が死ぬと、記憶が失われる。
彼らだけが覚えていたものは、その瞬間に完全に消える。
そこに慈悲のようなものはないのだと思った。
生き方を工夫することで、誰かの記憶の中に残ることは出来る。
でも、それだけだ。その人たちがみんな死ねば、それで終わり。
どんなに偉大なことそしても、愚かしい記録を残しても、
それは結局のところ全て人の記憶によっていて、
死が何もかもを断絶する。はっとした。
自分が完全に消滅する可能性に、ではなく、
自分の死の瞬間に完全に消滅するものが存在する可能性に。
その瞬間、終わりの街からさえ、消える人がいる。
私の死は、誰かに二度目の死を与えるかもしれない。悲しくなった。

けれど、ローラただ一人の記憶からなる「終わりの街」が、
とても豊かな普通の街であることが嬉しいと思った。
たった一人の中に、これだけの人々がいる。
親・友・かつての恋人・仕事仲間・隣人・たまたまマッチをあげた人…。
それ以外にも、たくさん、数千という数の人がいる。
ローラ自身が覚えていることも忘れているような人でさえも、
その街で死のあとの生活を送っている。
それはつまり、一生の中で誰もがこれだけ多くの人とすれ違えるということ。
死とともにたくさんのものが失われるとしても、
人は人と関わらずには生きていけない。記憶の中に残らずにはいられない。
終わりの街に暮らす人々の豊かさは、そのままローラに繋がっている。
彼女自身が街に来ることは決してないけれど、
人類最後の人は、豊かだったのだと思う。
もしも自分の記憶の中の人々が街を作るなら、
そこはどんな風になるのやら。
想像するのは、楽しく恐ろしい。

終わりの街の様子と、南極のローラの奮闘が交互に語られますが、
ローラの強さには心底舌を巻きました。
最後の数カ月間、誰とも会うことも話すこともないけれど、
彼女は氷の大地で生きることを諦めない。
「どのみち、世界は終わっている」ことに気づきながら、
それでも彼女は「みんなが過去に奮闘しつづけたのとおなじ理由で」戦う。
そりを駆り、テントの中で震え、クレバスから這い上がる。
会社の都合で南極に送られた野生動物専門家でありながら、なんたるガッツ。
自分なら、氷雪の世界にそりで走り出す勇気もない。
そんな彼女が最期にたどり着いた場所は、
確かに絶望の場所だったかもしれないけれど、
人の世界の終わりが世界のそれとイコールでないことの証拠のような風景が、
たまらなく美しいと思った。
人が死んだくらいのことで、世界は終わったりしないのだと思えば、
街の終わりも悲しむことではないのかもしれない。

素晴らしく絶望的で、
素晴らしく上等な終わりの物語でした。

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