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2010.01.01 (Fri)

陰摩羅鬼の瑕


陰摩羅鬼の瑕
(2006/9/16)
京極夏彦

自分が立っている地面。
その確かさを揺るがされたなら、
普通は慌てる、逃げる、怒る。

そのどれもを選ばなかった
聡明な貴人は、
ただ見つめ、考えていた。


【More・・・】

カメ探しよりこちらの方が先だったのか。
読む順番を間違えてしまいましたが、
あの宴のせいで壊れた関口くんが
しどろもどろながら回復するのが分かっていたので、
妙な安心感をもって読めた気がします。
鬱々の結果として停止したり、疾走したりする小説家が、
今回も元気に流れ流され、たどり着いたのは鳥の館。
活き活きとした死に姿の鳥で満ちた城の主は、
先生の作品を愛読しているらしい。
近いものを持っていても、
表出するものは、こんなにも違うんだなあとか思った。
「みんな違ってみんないい」だったなら、
伯爵も関口くんも平和な世界で暮らせただろうに。

事件全体の構造としては、
今までになく分かりやすかったような気がします。
序盤からもう誰がどうして何をしたのか見えている。
たくさん死んでも、起きたのはたった一つの事件で、
びっくりするような仕掛けも作為もない。
でも、比較的軽いフットワークで動いた拝み屋が、
自分の出番でしなければいけなかったことは、どうにもキツイ。
また夏がきたわけで、姑獲鳥と相対してからちょうど一年。
もちろん関口くんは心身ともに傷だらけなわけですが、
黒衣の男がこの一年間に負ったものには、
また違う痛みと重みがあるんでしょう。
伊庭さんが持ち帰っていたのは「余り」だけれど、
死神は落としたものではなく、落としたことを荷として負っている。
「無言で居住まいを正」すこの人の姿勢がなんだか悲壮に見えた。

多分初めてのことだと思いますが、
関口くんは今回拝み屋が喋りだす前に核心をとらえて、
その上で口を開くことを躊躇した。
困るくらいの知りたがり根性を抑えてしまうくほど、
伯爵の「瑕」は見ていられないものだったのだと思う。
小さいといえば小さいけれど、
それはどうしようもなく致命的だった。
何より、伯爵があまりに聡明であることが悲しい。
自分の悲しみの土台を粉砕されながら、
その下から現れたものから目をそらさずに考えるなんて、
小説家の先生に見習っていただきたいくらい。
見たがるくせに、目をそらすエキスパートが主だったなら、
もっと早くに城は崩れて、誰も死ななかったのに。

見る目を失った探偵が視ている世界は、
相変わらずの振る舞いをしていても壮絶だろうなと思う。
目の前にいる人も、起きていることも見えないのに、
他人の記憶ばかりで構成される世界なんて、すごく嫌だ。
そりゃあ目を閉じたくなるでしょう、眠くもなる。
しかしこうなってみて改めて気がつきましたが、
探偵の体質は本当に意味がないようで。
少なくとも望まれる結果には全く貢献しない。
まあ、彼に貢献する気があるかどうかは疑問ですが、
どうやら依頼されれば何かしようとは思うらしいので、
もどかしかったろうなと思う。
ちゃんと依頼されないことと、見えないことの両方が。
木登りと猿いじめと乱闘で多少解消されたかもしれませんが。

出ている分はとうとうあと一冊。
次が出るとしてもいつになるやらなので、
自分で自分を焦らして時間稼ぎすることにします。

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