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2010.02.23 (Tue)

アイスクリン強し


アイスクリン強し
(2008/10/21)
畠中恵

作る菓子甘し、真次郎。
気性危うし、園山巡査。
心根強し、沙羅嬢。
懐の金子儚し、長瀬他若様組一同。

明治の若人、日々是熱し!

【More・・・】

甘いものを食べている時が幸せだというのは、
何も婦女子の皆さまだけではないようで。
無味乾燥に考えてしまえば、
甘味は総じてエネルギーの塊なので、
そりゃあ食べれば満たされた感はある。
ただそれ以外のエネルギー源があるならば、
やはり甘味は嗜好品。
食べなくても、特に問題はないんでしょう。
だからこそ、それを味わう時間は特別になるのかも。
和菓子だろうが、西洋菓子だろうが、
甘味が人を幸せにする、というのは、
あながち的外れじゃない、とか
事あるごとに菓子に手を伸ばす明治の人々を見ていて思う。

序盤で若様組の面々が江戸から明治への変遷を語ってくれるので、
どれだけその二十数年が激変の時代だったかよく分かった。
それでも、江戸は二十年以上昔。
若者たちにしたら、もはや遠くにある感もある。
時代が時代なら、体験するはずのなかった金欠や苦境を前にしても、
若者たちはなんだかあっけらかんとしている気がした。
ひとつ前の親世代ならそうはいかないのかもしれませんが、
何にしろ、若者は日々忙しい。
手に入れる「はず」だったものを惜しんでいる暇なんかない。
何しろ今切実にしたいことがあって、しなければいけないことがあって、
そのどちらをするにしろ、足りないものがある。
だから巡査らはサーベル片手に街を走り、
菓子屋店主は粉やらバターを求めて奔走し、
女学生は自己と時代を見つめて、背筋を伸ばす。
園山巡査でなくても、皆様大変麗しく、そして暴走していると思う。
小泉店主が彼らに惹かれる気持ちがよく分かる気がした。

そして、菓子。
「チョコレイト甘し」の厨房での格闘は、
それはそれはハラハラし、そして楽しかった。
菓子作りは手間と時間と丁寧さが要ると聞きますが、
剣舞のような食材の舞、となんとも凄まじい。
積み重ねた苦労が結実するはずの朝に見たものがあれじゃあ、
真次郎がブチ切れても仕方ないかと思ったんですが、
そんなことで時間を浪費する余裕もなかったようで、
みなに指示を出し、計画を変更し、離れ業をやってのける姿は、
なにがどうより単純に格好良い。
計画通りのメニューも美味しそうだったけれど、
魚介のシチュー、ベーコンと野菜のスープ、カボチャのパイ、
卵と胡瓜のサンドイッチ、マッシュポテト、鶏の野菜づめ丸焼き、
パンバタプリン、ドロップビスキット、ワッスルス生地のケーキ…。
どうにも腹が鳴って仕方ない。

明治という時代を走り続ける明るい若者を追いながら、
それでもどこか不安を感じてしまうのは、
おそらくその先に待っているモノを知っているからでしょう。
何もかもの息の根を一なぎで止めて、
西洋菓子とともにある幸福な時間など、
過去の夢にしてしまう時代が、確実に彼らに迫っている。
小泉氏が口にする願いに息が苦しくなる気がした。
そんな時代でも、若者たちには変わらずにいて欲しいと思いながら、
それは多分無理な注文なんだろうなとも思う。
真次郎はボールやオーブンを奪われるし、
長瀬たち巡査は小麦粉泥棒を追いかけている場合じゃなくなる。
沙羅にしたって、道を閉ざされることになるかもしれない。
せめて若様組の面々が分裂してしまわないことだけでも願いたいものです。

哀れな小弥太のその後が気になるし、
風琴屋の店頭販売の様子も見てみたいので、
続刊を待つことにします。
それにしても園山さん、危ない男だ…。

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