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2010.03.02 (Tue)

最後の記憶


最後の記憶
(2007/6)
綾辻行人

積み上げたものを一気に崩される。
積み上げるそばからはじかれる。
そのどちらがより残酷なのだろう。

どちらにしろ、
底に残る最初の一個は、
幸福な形であってほしいと思う。


【More・・・】

その人がその人たるに必須のものは、記憶。
それは確かにそうだろうなと思う。
けれどたとえば、全ての過去を失ったとしても
残された時間が多分にあるのなら、
「自分」が崩壊することはないのかもしれない。
賽ノ河原の子どもたちのように、
崩されたなら、また積む。積める。
幸いにしてその時間も無限じゃないから、
彼らのように絶望することもない。
崩されたことの衝撃を乗り越えられれば、の話だけれど。
ただ「僕」の母が侵される病は、
今に近い方から順番に記憶を失っていく、らしい。
それは、一体どういう感覚なのだろうと思う。
置くそばから石を弾き飛ばす鬼は、
親不孝を責めるあの鬼よりも残酷なのだろうか。

その病が遺伝するのではないかと恐れ、
母の病院への足が遠のいて、いろんなやる気を喪失している「僕」。
もちろん遺伝云々の話だけでなく、
母のただならぬ様子や過去の記憶、現実の事件が重なった結果、
「僕」は恒常的な恐慌をきたしているわけですが、
藍川唯じゃないけれど、よく分からない。
確かに身近に母親の変貌をみていれば、病気の発症を恐れるのは分かる。
無残な死体を目撃して、幻聴・幻覚を呼び起こすのも、まあ分かる。
でも、それが度を越しているように見える。
歓迎すべき事態ではないのは確かだけれど、
どうも、それだけのこと、という感じがぬぐえない。
遺伝する可能性は高くて1/2、発症は早くて数年後、遅ければ三十年後。
それはそんなに絶望的な数字なんだろうか、とか思ってしまう。
だから、後半にかけてその恐慌状態が悪化して、
もの凄く世話焼きな元同級生や親類の親切を無下にする段にきて、
白けるを通り越して、「僕」に対して苛々してしまった。

藍川に尻をひっぱたかれる形で、
「僕」は母の育った家、それから生家をめぐり、
病の遺伝性と母が体験した「恐怖の記憶」の真相に迫る、わけですが
バイクにまたがり、叔父さんにお守り袋を渡された時点で、
仕掛けの核となる部分が見え、母の生家での諸々で確信して、
早く「僕」でも藍川でも気付かないかなという感じになってしまった…。
まあ仕掛けが見えたところで、
その結論の痛々しさ、情景の無残さ・不気味さは変わらないので、
恐怖の面からいえば影響は少ないんでしょうが。
実際「僕」が誘い込まれた異空間での情景は、
幸福の皮一枚下に悲劇がひそんでいるようで、ヒヤリとした。
キツネの面の者たちの語りやその増え方も、
思い浮かべてみれば、それだけで怖い。
自分なんかは刃傷沙汰にならなくても、帰りたくなる。
どこかへ消えてしまいたいという想いも分からなくはないけれど。

「僕」は色々理屈をこねながらも、
最後の選択にはまるで選択の余地がないと思ったようだけれど、
本当のところ、あれ以外の選択はなかったんだろうか。
そもそもが矛盾をはらんで存在する異空間にあって、
子どもが未来を失うことにどれだけの意味があるんだろうと思う。
「僕」の思考の逆をたどれば、
「僕」がいることがカツヤの帰還の事実を支えているわけで、
放っておいてもカツヤは溶け込まずに戻ったのかもしれない。
もしそうなら、「僕」が選んだことは、
無駄どころか、他の子どもたちにしたら迷惑千万。
長く望んでいた静かな場所に逃げこんでも、
本人が思うほどには、落ち着いていなかったのやも。
キツネたちは子どもたちに言っても分からない、と言うけれど
言葉や理屈を持ち出さないと今いる場所を肯定できない分、
「僕」を含めた大人の方が分かる力は劣っているのやも。

祭りの日の夕暮の雑踏には、「怖い人」がまじっている。
祭りなだけに違う種類のコワい人を思い浮かべてしまいました…。

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