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2010.04.11 (Sun)

モンティニーの狼男爵


モンティニーの狼男爵
(2001/10)
佐藤亜紀

人に尾を振る犬っころを、
気高い狼は見下すかもしれない。
人に牙剥く狼を、
人の手を知る犬は笑うかもしれない。

男爵は、
人の目に狼の毛皮に、
妻に対する犬の心をもつ男。

わしわししてやりたくなる。

【More・・・】

狼ってわんわんは言わないですよね、多分。
痛めつけられれば、キャンは言うかもしれないけど。
でも、最終的に狼人間どころか、
狼そのものに定着した男爵が、
愛しい妻に受け入れられる段に至っては、
しっぽふりふり、わんわん言いそうな感じでした。
なんてかわいい正直さ。
それでも獣の姿でベットに上がるのを躊躇したり、
妙なところで慎ましかったりする男爵。
人間の姿だったときは、
やれ間男を壁に塗り込めるだの、
やれ妻を監禁するだのと不穏な妄想に、
自分自身が苦しめられるような歪んだお人好しだったくせに。
総じて、人見知りでケダモノな男爵がかわいかった。

モンティニーというところは、
どうやらなかなかな田舎なようで、
狼といえば、見世物でもかわいいものでもなく、害獣。
冬に人の縄張りと彼らの縄張りが重なると、
必ず罠や猟銃なんかで駆除するもの。
そんな土地柄にあって、男爵が狼狩りの達人だったことは、
彼の性格からして、なんとも幸福なことだった気がします。
人も嫌い、世間にも興味がない、見目も別に麗しくない。
それでも領主である以上、責任は果たせねばならない。
だから、領民の役に立つ特技をもつことは、
ギロチンが大活躍だった時代にあって、
冗談じゃなく彼の命を救っていたのだと思う。
まあ、そんな男が結局狩られる側に回る訳で、
なんとも皮肉な話ではあるんですが。
罠にかかって、憎き間男に売り払われるとか、
男爵、なんとも哀れっぽくて仕方ない。

ただ、男爵がもう辛抱たまらんくなって、
羊を食い殺してお腹いっぱいになる夜までが、長い。
結婚して子どもが生まれて、
妻が間男に走るようになってからにしても、長い。
老いた男爵の一人称の昔語りは、
面白いけれど、若干まどろっこしい。
男爵目線の世界はどうも狭くて、
確かにパリはおぞましい場所だったかもしれないけれど、
この若者はもう少し世間に交わっても良かったような気がした。
もっと広い世界を知っていたなら、
出会う前から恋に落ちた妻に拘泥して、
獣と化すこともなかったかもしれない。
狼になってからの方が幸せそうだったので、
どちらがいいとも言いきれませんが。

甥っ子が狼になる性質だということを、
叔父さんは知っていたんだと思う。
ダニエルとの短い会話から、
おそらく叔父さんの兄貴、男爵の父親も、
同じ性質をもって生まれていたことがうかがえる。
しかも、おそらくは売り払われた男爵以上に、
悲惨なことになったようで、
見世物になってしゅんとした男爵を見た叔父さんの怒りは、
ただ哀れな甥を恥ただけでは、多分ない。
親から子へ受け継がれた性質、
それを発現させてしまった二代の境遇、
そういうものへの悲しみとやるせなさが、
羊の足を甥っ子に放る叔父さんの中に見える気がした。

もしも獣になるのなら、
首の毛をわしわししてくれる人のそばに
ベットと言わず床に侍りたい、とか思った。

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