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2010.04.14 (Wed)

春期限定いちごタルト事件


春期限定いちごタルト事件
(2004/12/18)
米澤穂信

眩い照明、拍手喝采。
降り注ぐ賞讃とやっかみの声。
その場所に立てる者は、ごくわずか。

だからと言って、
誰もがその場所を望むなんてことはない。
小市民がどちらの人間かは、
もちろんどうとも言い切れない。


【More・・・】

どうでもいい話ですが、タルトが好きです。
なので、小佐内さんの怒りはよくわかる。
自転車だけではなく、
限定ものの甘味まで奪われたりしたら、
小市民を目指す彼女であっても怒り心頭でしょう。
どうやらそれを「目指す」だけあって、
「僕」も小佐内さんも性質はそこから遠い模様。
詳しいことはまだ分かりませんが、
本性を露わにしてコンビを組んだなら、
この二人、結構怖いような気がします。
片や頭の回る狐、片や執念と度胸の狼。
健吾少年にしたら憤懣やるかたないようですが、
船高の平和のためにも、
二人には小市民道をまい進してもらった方がいいかも。
それが難しいがために、
「事件」なんてものに巻き込まれるわけですが。

真の小市民が、それたらんとするのかどうか。
その辺りは甚だ疑問なものの、
目立つ舞台には顔も手も出さず、
舞台袖どころか観客席一番後方辺りに縮こまっていたい。
そう願うのは、何も「僕」と小佐内さんだけじゃないでしょう。
舞台に立つだけの顔とか度胸とか、
それ以外の必要とされるものを持っていたとしても、
誰もがそこに立つことを望むわけじゃない。
真っ当少年の健吾にしたら、
そんな姿勢は卑屈に見えるのかもしれないけれど、
自分を卑下せずとも、そういう性質の人間はいると思う。
ただ、自分が割とそんな人間だからかもしれませんが、
このコンビを見ていると、どうも苛々する部分がある。
いわば失敗から舞台を恐れるようになった役者のような二人は、
陰にある自分の立ち位置に本当に満足する小市民なんかじゃない。
小市民という場所に逃げ込んでいるように見える。
舞台に帰れとは言わないけれど、
もう少し彼らに合った場所があるだろうに。

そう思う一方で、
彼らが巻き込まれる「事件」のかわいさに、
何か小市民然としたものも感じて、
なんだか微笑ましくなってしまった。
そもそも表題からして「いちごタルト」だし。
その他も、やれ校内で女子のポシェットがなくなったの、
やれおいしいココアはどうやって淹れた、だの、
「小市民」たる二人が触れるにはちょうどいい塩梅。
最後の「孤狼の心」では逮捕者が出たけれど、
それでも誰も死なないし、傷つかない。
過去に何があったか知らないけれど、
中学生だった「僕」が失敗した件では、
そうもいかなかったようだから、
一応「僕」も小市民として進歩しているのかも。
ポシェットの件にしろ、ココアの件にしろ、
起こったことを「事件」にするのは、
大体においてよそから頭を突っ込んだ人間なんだとか思った。

シリーズは「夏期」「秋期」と続くようで、
その中で狼な小佐内さんの過去のあれこれや、
嫌な狐な「僕」のノックダウン話をぜひ読みたい。
「僕」の調子に乗った狐具合は想像できるけれど、
ストレス発散にケーキをやけ食いするような少女が、狼…。
一体誰にどんな仕返しをやらかしたのか。
そしてどういう経緯で狐と狼が手を組んだのか。
その辺りを明らかにして欲しいとは思いますが、
解説にある通りなら、その辺りのことは放っておかれるのかも。
まあ、かわいい小佐内さんがケーキパクついて、
小市民道をそれまくる「僕」が悶々とするだけでも、
十分面白いとは思いますが。
小市民の星は、やっぱり遠いんだろうなあ。

何の威も借らない狼と狐の道行き。
にやにやしながら追いかけてみたいと思います。

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