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2010.04.16 (Fri)

カニバリストの告白


カニバリストの告白
(2008/06/28)
デヴィッド・マドセン

食べたい、のではない。
亡きものにしたい、のでもない。
男が望むのは、才能の発揮。
天才であることを知らしめること。
男の仕事は、「肉」から至高の料理を作ること。

誰の御相伴でも遠慮する。


【More・・・】

なんだろう、この明るさは。
禁忌のオンパレードのなのに、
告白する男の口ぶりのせいなのか、
暗さとかどろどろ感が少ない気がする。
だからこそ、その内容を考えた時、
背筋により一層寒いものが走るのだろうけれど。
表題にある通り、これは「カニバリスト」の話。
現代社会、少なくとも私が暮らす社会にあっては、
その思想は危険すぎる。
間に挟み込まれた精神科医の報告書が語る通り、
善か悪かで判断するなら、悪以外の何ものでもないと思う。
でも、とか言うのも憚れるけれど、
そのレシピは美味しそう。
…笑えない冗談だ。

告白するのは、シェフ。本人が言うところの芸術家。
アートを気取って犯罪に染まる者の告白なんて、
もう考えただけで虫酢が走る。
実際クリスプの理論は、控えめに言っても狂気の沙汰だと思う。
「吸収主義」だの、肉が恋人だの、
ついでに言えば、その倫理観も破綻している。
枕営業は自分の十八番のくせに、
店の地下室で行われていることには憤る。
名声と相応の見返りを望んでいるのに、
お金至上主義の双子の所業に、また憤る。
わざわざ言うことでもないけれど、
どう考えても、この男はどうかしている。
そして、そのどうかしている男の言葉と料理が、
至極真っ当にみえる辺りが、危険なのだと思う。
自分のアートに耽って警察のことを失念することもない。
ごく冷静に慎重に、クリスプは才能を発揮する。
「間に何人かいる」という言葉に、怖気が走った。

狡猾な犯罪者としてのクリスプを支えるのは、
どこか現実離れした、美しい双子の従業員。
彼らの過去はほとんど語られないものの、
その倫理観は、もの凄くすっきりとしている。
献身の精神はもっているけれど、
それを支えるのは、お金。それだけ。
生きるためににはお金が必要で、
だから、それに見合った労働をする。
なんて真っ当な理屈だろう。
まあその結果として、「クライアント」を取り、
クリスプの手伝いをし、果ては脅迫に詐欺に…。
真っ白な心のまま真っ黒な双子。
クリスプの虚栄心と自己保身の姿勢は鼻につくけれど、
ジャックとジャンヌは、なんだか好ましい。
それでも、したいこととしたくないことはあるようで、
エルヴェを拒否するジャックの言いようが、可笑しかった。

クリスプは牛や豚と偽って人を出していたけれど、
よくもまあ誰も気づかなかったものだと思う。
それが何とは分からなくても、
味の違いは確実にあっただろうに。
でも、逮捕される原因になったものが料理に紛れ込むまで、
誰も疑いすら持たなかった。
逮捕を仕組んだのは、双子なんじゃないかと思う。
同じ店で仕事を続ける限界と危険性から、
あえて罪を明かし、それを覆す。
そうすることで、同じことを別の場所で続けたとしても、
再び疑いの目を向けられることはない。
そこまで考えて実行したなら、この双子は有能すぎる。
忠誠心ではなく、より儲けるためなんでしょうが。

新天地で始めた店は、きっと繁盛する。
有能な従業員と「天才」がいるのだから。
まあ、招待されたって、御馳走されるのは御免ですが。

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