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2010.04.21 (Wed)

シャングリ・ラ 上・下


シャングリ・ラ 上
(2008/10/25)
池上永一

届かないものに、
それでも手を伸ばしてしまうのが、
人の本質だとしたら、
空が人を焦がれさせるのは道理だろう。

たとえ掴める空など存在しないとしても、
塔を築かずにはいられない。


【More・・・】

人の限界を越えて跳躍する國子を見ていて、
なんだか羨ましくなった。
彼女だけでなく、登場する女たちは、
誰も彼もが軽々と一線を越えていく。
信念や執念や、憎悪や欲望や…。
心の中に抱えるものの重さをものともせず、
むしろその重さと堅さを支えにして、
より高く、より遠くへ、彼女たちは行く。
東京が凶暴な森に飲み込まれ、
ミサイルと種子が飛び交う世界にあって、
その姿だけは、生々しくてキレイだと思った。
まあ、実際は小夜子や水蛭子なんかは、
後半かなり恐ろしい姿になった訳ですが。

地球が本当に温暖化しているかどうか別として、
資本主義経済が崩壊し、
炭素に新たな価値が見出される過程は、
現実になりそうな感じがひしひし感じられた。
メデューサがやっていることを理解できなかったのは、
ひとえに自分の勉強不足なんでしょう、多分。
とりあえず、数字の上でだけの魔法らしいのは分かった。
もうそれだけで「旧時代」の人間としては、
いくら合法だとしても、いかがわしい気がしてしまう。
外相に向けて滔々とかたる香凛が、
どこぞの悪徳セールスにしか見えない…。
終盤、困ったお子様になった彼女になんだか安心した。
何度も転んで、神田川で絶望したりしても、
ただでは転ばない根性のあるガキんちょが愛おしいと思った。

序盤は経済の世界と地上、それからアトラス。
その三つを行き来する程度だった物語は、
最終的に、ミイラが復活するわ、雷雲とともに妖怪が現れるわ、
かと思えばあっちではチキンレースが始まり、
草薙が喰われ、核兵器発射の秒読みが始まり、姉妹が初対面し…。
一言で言うと、ぐちゃぐちゃのなんでもあり状態。
小夜子なんか不死身にもほどがある。
まあ、序盤からブーメランで戦車真っ二つにしたりしてたので、
これはこれでと思ってしまえば、
しっちゃかめっちゃかな混沌具合もなかなかに楽しかった。
國子、凪子、美邦、小夜子、香凛、涼子…。
女たちのアクの強さでお腹いっぱいにはなったけれど、
贅沢を言えば、男どもにもう少し気張って欲しかった。
草薙や武彦がそうであるように、みんな純情すぎる。
巨人のようなタルシャンでさえ、凪子に利用されてるし。
チャンには期待できそうだけれど、
次の五百年も女たち舞台になるような気がした。

常に誰かが戦ったり、叫んだりしていて、
騒がしいことこの上ない展開の連続のせいで、
やや埋もれてしまった感もありますが、
國子とモモコ、美邦と小夜子、あるいは眞紀子という母。
彼らの在り方を追っていくと、
「親子」という関係性の強靭さを見せつけられるようだった。
子どもであることには努力がいらないとしても、
親であることは、そうはいかないものらしい。
なろうとしなければなれないモノに、
モモコは性も血も超越してなった。
小夜子は背を向けながら、なりたいと願った。
眞紀子は子を成しても、なろうとはしなかった。
多様という言葉で片付けるのもためらうくらいに、
その様はそれぞれに真摯で、必死なものだったように思う。
最強の父母・モモコが言うように、
母性本能なんて、確かに無意味な言葉なのかもしれない。

衛星がイカロスで、人工知能がゼウスにメデューサ…。
それぞれの最後を思うと、
なんとも皮肉な名前をつけるものだと思った。

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