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2010.04.29 (Thu)

ネバーランド


ネバーランド
(2003/5/20)
恩田陸

病気と借金以外なら、
なんでも貰っておく主義でも、
他人の秘密には、少し躊躇する。

ときにそれは、
他の何よりも重く深く、そして長く、
身の内を削ることになるかもしれないのだから。


【More・・・】

閉鎖された空間というものは、
恐怖と同時に高揚を生む気がする。
古い寮、冬、居残りの少年が四人…。
もうこれだけでなんかテンション上がってしまう。
どうやらこの学校は進学校らしいけれど、
ガリ勉の青白い少年は四人の中にはいない。
悪びれもなく、酒宴が繰り広げられる。
そこでの会話や距離感から感じられる、
空気のようなものがたまらなく懐かしくなった。
これはまさに、「合宿」。
日中だけでなく、朝も夜も友人と顔を突き合わせ、
同じ釜の飯をつつきつつ、
下らない話も重い話も同じように肴になる。
少年たちが眩しいったらない。

美国、寛司、光浩、統の四人は、
特別な絆のある集団でもないようで、
偶然、それぞれの事情が重なって、一つ屋根の下にいる。
けれど、徐々に確かに、絆は生まれていく。
その様が見ていてとても楽しかった。
秘密を共有するということは、
共犯者のような意識を生じさせるものだろうけれど、
それとは少し違うように思う。
互いの弱い部分、柔らかい部分を知って、
少年たちは自分が傷つけられないために、
相手の秘密を守る、のではない。
まるで相手にもそういう部分があることを、
目の前にそれが差し出されるまで思いもしなかったかのように、
秘密や傷の前に沈黙するのだという気がした。
そして朝がくれば、
傷に触れないことや相手を守ることを、
自然と知って、出来るようになっている。
もの凄いスピードで、少年は成長するものらしい。

誰もが秘密やトラウマを持っているとしても、
彼らのそれは、かなり重い。
一番傷の浅そうな美国の話にしても、
それだけで昼ドラの一つも作れそうな感じ。
統の懺悔を前にして光浩が言ったように、
他人の秘密なんてものは、
聞かされる方にしたら迷惑千万もいいところ。
でも、一人で抱えるには重すぎることも確かにある。
自ら、あるいは強制的に、
告白する彼らは誰も彼も限界にきていたのかもしれない。
こういう機会がなければ、
おそらく誰かと共有することなく、
秘密はそれぞれを静かに壊していったように思う。
吐き出せる場所と聞き手を得た彼らは、幸運なんでしょう。
島田弁護士の前に四人で立つ彼らを見ていて、そう思った。

統の出発によって、四人の空間は終わって、
年を越す頃には、日常が戻ってくる。
飛びぬけてキツイものを内部に抱えていた光浩に、
一応一つの終わりが訪れたことに、心底ほっとした。
朝がくるたびに成長する年頃だとしても、
彼らが自分の問題に自分で手を下せるようになるまでは、
まだまだ結構な時間があって、
その間、この少年が苦しみ続けるなら、
閉鎖された非日常の終わりは、悲し過ぎる気がしていた。
唐突な解放に、光浩は憤っていたけれど、
これからの彼の日常が前よりは自然になるのが単純に嬉しい。
毎朝毎夕、律儀に食卓を用意する姿に、
どうやらほだされてしまったらしい。

圧倒的な広さの未来があるという、
そのこと自体が救いになることもあるらしい。
なんとも羨ましい話で。

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