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2010.05.18 (Tue)

不連続の世界


不連続の世界
(2008/7)
恩田陸

死には直接関わりたくない。
それは非日常の象徴だから。

でも、望むと望まないとに関わらず、
あちらさんから近づいてくるなら。
選択肢もなく、自分の周りにそれが満ちるなら。

すぐに破ける薄皮ような日常の上では、
とてもやってはいけないと思う。


【More・・・】

塚崎多聞、懐かしい名前だなあと思ったら、
「月の裏側」の刊行は2000年だったようです。
十年か…。なんてこった。
水と街そのものに潜む何かを追ったあの事件。
十年を言い訳にしてしまうのもどうかと思うものの、
結局多聞さん、どうなったんでしたっけ。
あの話は、一つの街の内部に、どんどん世界が閉じていくような、
それでいて外の世界までも単色に塗りつぶされていくような、
二つは同じことなのかもしれませんが、
そんな恐怖だけが印象に残っています。
あと、手に負えない無力感。
それに比べると、今回の話では、
多聞さんの腰の軽さと脈絡のなさに伴って、
世界は全く一様にならない。旅がそれを助長している。
それはそれで、ぐるりとひっくり返ってしまいそうで、
怖いものだなと思った。

トラブルメイカーというのがいるのと同じように、
巻き込まれ体質の人間も確かにいると思う。
塚崎多聞はそんな人間の一人。
もっと積極的に、引き寄せ体質と言ってもいいかもしれない。
何を引き寄せるのかと言えば、
トラブルや霊的な何かではなく、
もっと人間臭くて、それでいて妙な出来事、話。
何かを目撃すると人が死ぬ、とか、
聞くと死にたくなる歌がある、とか、
それは噂程度なら、よくあるものだけれど、
それが身近な誰かの話なら、気味が悪くて仕方ないと思う。
多聞さんが引き寄せるのはそういう話。
彼は当事者ではないのに、気がつくと誰よりも真実の近くにいる。
知らない内に入口に立って、気がつけばたどり着いている。
開いているけれど、閉じている人、らしい。
どんな都市伝説よりも、この人自身が一番妙なんじゃないかと思う。

最初の三篇「木守り男」「悪魔を憐れむ歌」「幻影キネマ」では、
目撃、遭遇みたいなものがキーになっている気がした。
「悪魔を…」は耳を通してだけれど、
見るにしろ聞くにしろ、「それ」に出会ってしまう。
日常の中に、いきなり何かが割り込んでくる。
異物である以上、それは「非日常」なんだろうけれど、
そういう感覚自体が、日常の一部とも言えるんだなと思った。
たとえば、通勤中にひどい事故を目撃する。
あるいは、覚えのない大きな傷を自分の身体に発見する。
その瞬間ひやりとする。これは、違う、ダメだと思う。
でも次の瞬間には、まばたきすれば、日常が戻る。
日常の流れに押し流されて、忘れることができる。普通は。
とすると、多聞さんのやっていること、その姿勢は
勇気がいるというか、無謀というか、
この人は日常にすがりつきたいとか思わないんだろうか。
興味のままに非日常への裂け目を広げる多聞さんを見ていて、
なんだかとても不安になった。

「砂丘ピクニック」は、少し毛色が違って、
怖さとか不安はなく、なんだか呆れてしまった。
人はなんて強かで、しょうもないんだろう。
と思って気分も軽く「夜明けのガスパール」に入ると、
後から効いてくるボディブローを食らいました…。
夜行列車、中年男四人で徹夜の怪談。
ほほ笑ましいというか、単純にいいなあと思う。
ただ、そこで披露される話が、結構怖い。
やれ呪いだの何だのよりも、よほどゾクゾクする。
黒田と水島の話が後を引く。
そして多聞の話。彼自身の、話。
妻がいなくなって、何ともしれない写真だけが送られてくる。
怖い話なのは確かだけれど、
最後に用意された多聞という人の姿に、
不覚にも泣きそうになった。
結局、この人に持っていかれてしまったなあ。

次があるなら、また十年後、だったりして。
日本の各地を旅する話でもあり、
風景も、好みの妙な雰囲気も楽しめるシリーズ。
十年、また待ってみますかな。

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