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2010.05.30 (Sun)

煙か土か食い物


煙か土か食い物
(2001/3/7)
舞城王太郎

血の繋がりだけが、全てではない。
そんなものを軽々と越えて、
人と人は繋がれる。家族になれる。

でも、血は、
確かに繋がりなのだ。
ときに最弱の、ときに最強の。

奈津川兄弟親子は、血で血を語る。

【More・・・】

家族を家族たらせているものは、
一体何なんだろうと思う。
教科書的に解答すれば、
その基本は夫婦関係であり、
その発展系としての親子関係。
でも、それがなければ、
家族を名乗ることはできないと言うと、
法律上のことはわきに置いておけば、
決してそんなことはない。
建前上は「家」制度が崩壊している以上、
名なんてものは意味をなさないはず。
家族をそうさせるものは認識だけなんじゃないかと、
そんなことをぼんやり考えていたけれど、
「俺たちは兄弟だ!」という四朗の叫びに
何か目を覚まされた気がする。

最初に生まれたから、一郎。
次に生まれたから、次郎。
そういう名前の付け方は、
どこか子どもの個を損なうような気がしていた。
しかし、奈津川兄弟のはちきれるような個を前にして、
そんな考えは浅はかだったと思い知らされた。
与えられた名前によって、
自分の個がどれほど影響を受けたかを思えば、
皆無ではないだろうけれど、
芯に食い込むようなものでもないわけで。
海の向こうへ渡ってしまえば、
四朗は「シロー」になって、メスをふるう。
名前なんてものは、結局そういうものなんだろうと、
物語の進行とは別の部分で、妙に感心してしまった。

主婦が殴られ埋められるという連続事件の背景は、
四朗の鮮やかな頭脳によって、次々と明らかにされていく。
少しばかりイってしまった青年と、
いくつもの復讐や思惑が絡み合った結果、
事件は起きてしまうわけですが、
結局その中心にあったのは、
父と一人の息子の不和、対立、殺し合い。
そしてそこから上下にのびる血の繋がり。
要はこれは、家族の物語なんだなと思う。
血を介して成り立った家族。
四朗の回想の中で血を流すのは、
主に次郎、というか次郎だけだけれど、
奈津川の家を構成する誰もが傷をもっている。
その傷や血の上にしか成り立てなかった家族、と言うと、
なんだか悲惨な在り方のような気がするけれど、
血縁は、もしかしたら元来そういうものなのかもしれない。
何かと拳を交わす奈津川兄弟は多分、稀に見るほど仲が良い。

事件の背景に迫り、復讐を目論む四朗は、
何度も何度も、様々な相手に愛を叫ぶ。
兄弟に、母に、祖母に、友に。
それと同じだけ、拳を繰り出し、拳を食らう。
最後にはまさに満身創痍になったこの男の在り方は、
奈津川家の象徴のような気がした。
家族が死に絶えようとしたとき、
自分の苦痛全てを無視して、
全員の命を救うことを瞬間的に選ぶ姿も例外的に見えて、
実際はそれもまた奈津川の人間の本当なんだろうなと思った。
急を告げる丸雄の叫び、親父に駆け寄る一郎、
そして自分が受けた暴力を忘れたかのように、
頭良いのか阿呆なのか分からない方法で家族に復帰したがる次郎。
誰も彼もが不器用極まりないやり方で、
家族への愛を叫んでいるように見える。
まあ、それで大勢傷ついているわけなので、
なんとも傍迷惑な家族なんだけれど。

龍子といい、奈津川四兄弟の母親といい、
この家族に嫁した女性は大変です。

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テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


21:09  |  舞城王太郎  |  TB(1)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

最近面白い小説読んでないなー、とか
新しいジャンルを開拓したいなー、という方には是非お薦めしたいです。
トラックバックさせていただきました。
藍色 |  2012年06月12日(火) 00:03 |  URL |  【コメント編集】

●Re: タイトルなし

コメントありがとうございます。
ジャンル分けの難しい面白さのある作品でした。
あこん |  2012年06月12日(火) 22:10 |  URL |  【コメント編集】

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