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2010.06.06 (Sun)

沼地のある森を抜けて


沼地のある森を抜けて
(2008/11/27)
梨木香歩

星の歴史の始まりから、
それは幾度も繰り返されてきた。
生まれ、繁栄し、滅びる、その理。

人のそれを見送るのは、
一体何なんだろう。

【More・・・】

ぬかに釘、と言えば
意味のないことのたとえですが、
ぬか床から人、は
理の分からないことのたとえ、だったりして。
でなければ、問答無用の理のたとえとか。
連綿と受け継がれてきたぬか床、なんてものは、
それが懐かしい人が遺したものでもない限り、
気味が悪いもののような気がします。
久美さん、よく手を突っ込めるな…。
しかもこのぬか床、人が出てくる。
いや、別にホラー映画的にずるりとではないけれども、
どうやら勝手に卵を産んで、
周囲の人間の意識に影響を受けて人になる、らしい。
家に帰ると、ぬか床産らしき人がいる。
半透明だったり、のっぺらぼうだったりしながら。
気味悪いことこの上ない。
それでいて美味いぬか漬けができる辺りが憎らしい。

そんなぬか床を何の因果か受け継いだ久美さんのお話。
フリオと光彦の話を読んだ辺りまでは、
この妙ちきりんなぬか床から、
次々に人が出てきて交流する話かと思ってましたが、
どうやらそうではなかったようで、
気がつくと、ぬか床の、ひいては久美さんのルーツを追って、
「無性」の男性と共に島に渡ってました。
かつてぬか床を島に返そうとして、
何人かが命を落としたというエピソードもあったので、
島に着くまでが一苦労かと思いきや、
すんなり着いてしまって、なんだか拍子抜けしたような。
まあ、つまりは時が満ちたということなんでしょうが。
からし粉の投入というちょっと抜けた作業で、
あっけなく消滅したカッサンドラが、
意外と重要な人物だったことが後から分かったり、
どうも自分は読み方を誤ったなあという気がします。
いや、それでも十分に楽しめたんですが、なんだかもったいない。

ぬか床から派生して、
久美さん、彼女の家、性と生殖、種の淘汰、風野さん。
そういうものがどんどん繋がっていく様は、
やはりどこかおぞましいとか思ってしまう。
ぬか床という形をとってはいるけれど、
その壺の中にあるのはまぎれもなく命なわけで、
それを知ってしまったなら、
自分なら何を呻こうが、そんなぬか床は殺してしまうと思う。
粘菌を愛する風野さんの気持ちは分かっても、
人の形をした人でないものを産むそれは、
ペットとしても人としても見ることはできない気がする。
放置するだけで死ぬようなものなのに、
それを手放すためにわざわざ絶海の孤島まで赴くなんて、
久美さんはかなり奇特なご仁だと思う。
そもそもそんなぬか床やぬか床産の人を受け入れるだけでも、
かなり普通からずれているような気もするけれど。
あ、でもフリオみたいなのを幼馴染にもったなら、
抵抗感がなくなるのも分かるかもしれない。
どこ産の何であれ、フリオは愛すべき男だと思う。

そんなこんなで風野さんと島へ来て、
久美さんは自分の種が滅びていく場面に立ち会うわけですが、
「平和な」滅びというのは、
実際には生物の在り方、その根幹に反するとしても、
美しいな、とか思ってしまった。
まあ、厳密にいえば久実さんやフリオ、光彦、
それから外で「人」との混交に成功した末裔がいるので、
完全に消滅してしまったわけではないんですが。
それでも、沼と共に生きて、死に続けてきた彼らは、
沼が枯れるとき、共に消えることを受け入れている。
生き延びる努力をして、それでもダメなら、
その滅びを悲しんだりはしない。
無性の鎧を着て、男であることから逃げて、
それでも性から逃れられずにあがく風野さんも、
その在り方には共感するけれど、
滅びを受け入れる沼の姿の前にはどうもかすんでしまった。

ぬか床の人にも動じず、
自分のルーツから目をそむけず、
それでも光彦もどきの言葉に涙する久美さん。
見上げた人だと思う。

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