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2010.07.23 (Fri)

少年検閲官


少年検閲官
(2007/1/30)
北山猛邦

彼は旅をしている。
父の言葉を胸に抱き、
失われつつあるものを探して。

彼は彼の探し物を持っている。
その全てを頭の中に。
心だけを失ったまま。

世界の亀裂を挟んだあちらとこちら、
少年たちは邂逅する。

【More・・・】

本が禁じられた世界、といえば、
華氏451度が思い浮かびますが、
昨今の流れのように、
メディアとしての役割を取って代わられる形で、
まさに「滅びて」いくのならまだしも、
積極的にその存在を抹消する「焚書」には、
どうにもこうにも恐怖を覚える。
どちらの物語の中でも描かれているように、
それは思考と記憶を奪うことに繋がっているから。
「華氏…」では技術の進歩と支配者の思想が、
この「少年検閲官」では、死と悪意への人々の恐怖が、
それを押し進めているようだけれど、
思考を焼き尽くす炎の情景が現実になることになれば、
おそらく自分はどちらの物語中でも
「異端」やら「反政府分子」やらになるのだろうと思う。

思考を奪う炎は、
どうやら世界のほとんどを嘗めつくしたらしい。
そういう世界で、首なし死体が繰り返し見つかる。
人や建物が忽然と消失し、不気味な印だけが残される。
犯人は正体不明の怪人・「探偵」。
これはまさに「ミステリ」。
けれど、人々はそれが殺人であることさえ認識しない。
「ミステリ」は本とともに滅び、
全ての情報は検閲を受けて、「安全」なものになっている。
彼らは悪を知らない。殺人はおろか罪も分からない。
ミステリを探して旅する少年が感じた違和感を、
読んでいる自分は恐怖として感じた。
自然災害に対する恐怖心はまだ理解できる。
それゆえ、死を忌避することも。
でも、首なし死体を目の前にして、
それを「自然死」と片付けるなんて、尋常じゃない。
焼け跡に残った世界は、歪んでいる。

「ミステリ」という名の思考法が滅びた世界では、
「ミステリ」を知る者が優位に立つという。
それもまた恐ろしいことだと思った。
完全に滅びた恐竜は脅威ではないだろうけれど、
わずかな生き残りがいるのなら、
被食者には抵抗の術もない。
全ての真相が開示される段になって、
「犯人」が語った被害者の数にそんなことを思った。
それでも、記憶を受け継ぐのは大変なことらしい。
特に担い手が少ない場合は。
生き残った恐竜だったはずの犯人でさえ、
十分には受け継いだものを生かせなかった。
その罪は命一つで贖いきれるものではないけれど、
段々と衰えていく「ミステリ」の力が哀しい気もした。

自警団を作ったり、積極的に「探偵」を追ったり、
思考を奪われた人々は、
結局は何もできないとしても、決して従順じゃない。
一方で、誰よりも従順であるように育てられた検閲官が、
誰よりも「ミステリ」に精通した強者であることが、
なんとも皮肉な話だなと思った。
英国少年のクリスが探偵役になるのかと思いきや、
ミステリ削除を仕事にする検閲官たるエノが、
結局探偵役をさくさく果たしたことといい、
「ガジェット」に関する展開といい、
後半はやや駆け足気味になったような気がします。
エノとクリスの友情ももう少しじっくり深めてほしかったような。
シリーズ化してクリスが旅を続けるなら、
存外人間臭いエノや、お茶目なキリイ先生との再会に期待しよう。

「探偵」の動機も分からなくはないし、
パンがなければお菓子を…的ことも言えないけれど、
やはりもっと他に方法があったんじゃないかと思う。

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