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2010.08.03 (Tue)

少女七竈と七人の可愛そうな大人


少女七竈と七人の可愛そうな大人
(2006/7)
桜庭一樹

差を表す言葉は、
いつも孤独を強いる。

あなたと私たちは違う。
ほら、こんなにも。

罵倒も賞讃も、同じこと。


【More・・・】

北国生まれ北国育ちの身としては
二度と日なんて差さないんじゃないかという、
それぐらいの曇天ばかりの冬にはなじみがある。
しんしんと、なんて形容は似合わない、
むしろぼたぼた、びょおうっと降る雪。
七竈の実の赤、学生諸君の制服の黒。
川村七竈の住む世界の色は、懐かしい。
七竈にとってそこは、素晴らしい世界ではないけれど、
彼女の目を通して、
あるいは他の瞳を通して見るその世界は、
普通に残酷で、そして十分に優しいと思う。
要はありがちの、その小さな社会の中で、
何をせずとも浮かび上がってしまう彼女が痛々しい。

美しさは罪だ、とか
そんなことを七竈に言ったら、
グーで殴られた後に敬語で罵られそう。
彼女にとって美しいということは、
本当に「遺憾」なことなんだと思う。
望んでもいないのに区別され、
母のことを持ち出され、
挙句に妬みと孤独を押し付けられる。
しかもその母はいたりいなかったりの旅人。
家族からは「風変わりな」とか言われてますが、
そんな状況にさらされ続けたわりには、
七竈はまともに育ったんじゃないかという気がする。
それが差を表す言葉である以上、
美しい人は、少数派にしかなれない。
妙な言葉遣いと理を重んじる姿勢は、
少数派であることを了解しようとした結果なのかもしれない。

そんな七竈にとって、
身近に少数派の仲間がいたことは、
単純に考えれば、幸運なことなんだろうけれど、
雪風がいたからこその痛みもあって、
近づきすぎることをためらう二人の距離、
それが鉄道模型のあちらとこちらなんだと思う。
異形のかんばせをもつ者同士である親密さと、
近すぎる縁故の間で、
二人はとても静かに身悶えているように見える。
雪風が繰り返し、七竈も求める言葉、
「きみがそんな顔に生まれてしまったのは…」は、
その苦しい距離を保つためのものだった気がする。
近づきすぎて傷つけ合わないために、
野生の獣が発する威嚇の唸り声のような。
でも、二人は確かに触れ合っている。
名前を呼び合うということは、そういうことなんだと思う。

七竈の述懐と、
その母・優奈、川村家の番犬・ビショップ、
そして桂雪風の視点を並べてみると、
彼女が多くから線を引かれて隔離されている一方で、
多くに見守られていることが分かる。
一番優しい目を向けているのは、
ビショップとお祖父ちゃんかもしれないけれど、
多分、母も母なりに、七竈を見ようとしている。
魂を共有しているかのような雪風も、
七竈が雪風の中に自分を見るようにではなく、
ちゃんと七竈を七竈として見ている。
少女と少年の出生は面倒なしがらみの中にあるけれど、
それでも七竈はちゃんと愛されているんだなあと思う。
もちろん、大家族の中の雪風も。
聡い二人はそれを知っているんでしょうが、
その上での彼らの選択には、不思議と納得した。

「ゆるせないのは、生きてるあいだだけさ」
生きることの先輩たる老犬には頭が下がる。
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