2017年09月 / 08月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫10月

2010.08.16 (Mon)

くぐつ小町


くぐつ小町
(1996/2)
加門七海

執着は重い。
それは鎖になり、かせになり、
道を踏み外させる。

ただ、小野父娘は、
それでも幸福だったのだと思う。


【More・・・】

愛とは何か。
何って何だ、とか思いますが、
その答えの一つは「執着」なのかもしれません。
歴史上の美人といえば、一番に思い浮かぶ小野小町。
その父小野篁を見ていると、
そんなこっ恥かしいことを思います。
甦りや怪しげな呪術が行われるこの話は、
もちろん小町異聞なんですが、
無力で哀れな小町も、
父であり、愛を乞う人である篁も、
妙に生々しい感触を持って生きている。
執着し、理に抗い、相応の罰を受け、
そしてどこまでも執着を断ち切れない。
それが愛ゆえだと思えば、尚更救われない。

時代は平安、雅と貧困の世界。
現実から乖離した貴族の思考には、
そんな場合じゃないだろ!と突っ込みたくなる。
小野の父娘にしても同じ世界の住人。
世間の貧困や屋敷の塀の外の悲劇には、
とことん無関心で少し苛々した。
とくに篁は、塀の外にあるものを知りながら、
そこから故意に目をそむけるだけでなく、
娘の目にも覆いをしている節がある。
おそろしいもの、おぞましいものを、
子どもから遠ざけておきたいと思うのは、
確かに親心かもしれないけれど、
篁のやっていることは結局己のため。
結局のところ、娘の心情さえどうでもいい。
ひたすらに利己的なこの男は傲慢だと思うけれど、
その徹底した利己心は、いっそ潔かった。

それに比べると、
小町の惑いは、見苦しい気もする。
世間から隔絶され、父だけの世界に育てば、
そうなってしまうものなのかもしれないけれど、
だとしても、真実を知ったときの揺れは、
彼女の弱さであるように思う。
決して救われることのない身の上は哀れだし、
確かに理不尽で、同情する。
でも、彼女は結局何も決めない。
自分を人でないものとして造った父を、
憎みきることもできず、
だからといって許せもせず、
ただひたすらに想う、執着する。
小野小町以外の生き方を求めもせずに。
この人はなんて弱いんだろう。

父娘以外に目を投じれば、
その周囲にも執着が満ちている。
美しい(らしい)小町に心奪われた者。
篁の生に魅了された者。
小野とは全く別に、執着に生きて死んだ者。
衣冠束帯の人々にも、
何ら変わらない執着があることに、
今さらながら、そうかと思った。
白黒映画の世界が本当はフルカラーだったように、
小野親子が生きた世界にも、
何やらぐるぐると情が渦巻いていたわけで、
彼らが踏み外した道を堂々行く者なんて、
どこにも存在しなかったのかもしれない。
つまるところ、篁も小町も普通の人なのか。

娘をあんなものにするなら、
自分も人の道を外れる。
父殿にもそれくらいの覚悟をして欲しかった。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


19:08  |  加門七海  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/203-0e4fc7e9

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |