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2010.10.03 (Sun)

アミダサマ


アミダサマ
(2009/7)
沼田まほかる

彼岸にいる愛しい者は、
一足先に旅立った彼らは、
待っていてくれる。
戻ることなど望めないほど、
きっと彼の国は美しい。

だから焦ることはないのだと、
そう諭してやるには、
彼女はあまりに幼かった。


【More・・・】

「忌む」という言葉の裏には、
形をもたない何かへの、
曖昧なのにどうにもならない恐怖が透ける気がする。
おそらくそれは無知と無縁ではなくて、
時代を遡れば遡るほど、
忌む「べき」ものは増えていくのだと思う。
だからといって、今それが皆無かと言えば、
決してそうではない。
もの忌みの習慣はもはや身近ではないけれど、
「忌中」やそのものずばりの「忌まわしい」という言葉は、
確かに生活の中に残っている。
けれどだとしても、と逆説に逆説を重ねて思う。
最初から、存在の初めから忌むべきものなど、
存在しないのではないかと、
ミハルを見つめる浄鑑を見ながら考えた。
己の心と書いて「忌」とは、皮肉な字だ。

坊主と医者が幼馴染だったり、
集落の中に、忌まわしい何かが蔓延していく様に、
どうにも「屍鬼」を思い出さずにはいられなかった。
まあ、その坊主・浄鑑は、
静信なんかとは全く違う雰囲気の人間で、むしろ尾崎に近い。
浄鑑は確かに僧侶でいい年で、
読経をしながらこの世ならぬ風景を視てしまうような、
まさに仏の道の人だと思うけれど、
根っこのところで、俗なんだろうと思う。
俗という言葉が生臭すぎるなら、
現実的とか、理性的とかでもいいけれど。
だからこそ、現実の中に非現実的な存在が現れたとき、
かつての現実の方にすがりつくのではなく、
非現実的なそれを含んだ今ある現実の方を見て判断できる。
そして現実が結局は自分の妄想に過ぎないことを、
理解して認めているように見える。
この人の説教を聞いてみたい、そういう立派な人だと思う。

だから、浄鑑がミハルを忌むのには、
最初の方では何か違和感を持った。
ミハルは大人しくて不幸なだけの子供ではなく、
世の理を破壊しかねないほどの大きな力を持っているらしい。
確かにそれは大変なこと、人が人なら彼女はとっくに殺されている。
でも終盤になって浄鑑自身が言っているように、
現実と妄想の間には、薄膜一枚しかないのだとしたら、
子供がそれを破ることなど、大したことではない気もして、
ミハルを助けるべきではなかったと悩むのは、
一体何なんだろうと思った。
けれど際に集落の中に異変が現れ始めてから、
そうか、これのことかと納得した。
「屍鬼」ほどの派手さはなくても、
この異変は確かにおぞましくて、忌まわしかった。
もっと単純に言えば、怖かった。
世界にひびが入ることは、こんなに怖いものかと思った。
これを予期し恐れ、それでもミハルを生かすことを選び、
最後の最後まで彼女が幸福に普通に生きることを願うなんて、
浄鑑の、そして仏の道の懐に感服する。

歪みが「カアサン」を飲み込んでしまったとき、
クマのときには単なる幼さに見えたものが、
本当は、本当の無垢なのだと、
口数少ないミハルの叫びを聞きながら思った。
確かにミハルは忌まわしい、恐ろしい。
でも、彼女自身には何の非もないし、
画策とか、あるいは悪魔のような堕落を誘う意思とか、
そんなものも全くない。
愛する者の傍にいたいという願いだけがあって、
それを可能にしてしまう力をもっている、
それだけなのだと思う。
それだけなのに、この世界に留まることができない子供が、
哀れで痛ましくて仕方なかった。
ミハルにも悠人にとっての律子のような、
岸辺から名を呼んでくれる者がいてほしかった。
助けてと一途に呼ぶ子供に、
浄鑑の声も悠人の声も届かなかったことが悲しい。

神も仏も信じないとまでは言わないけれど、
少なくとも帰依してはいない者にとって、
「誰一人として、阿弥陀の救済から逃れられない」のは、
喜ぶべきなのか、それとも怖れるべきなのか、
なんだか分からなくなってしまった。

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