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2010.11.06 (Sat)

アキレスと亀


アキレスと亀
(1992/6)
清水義範

「よくあること」は、
よくあることだから退屈。
泣くにも笑うにも値しない。

ただ、「よくあること」を、
大真面目に目の前で再演されたら、
なぜだか笑えてしまう不思議。


【More・・・】

定番には定番の良さがあると思う。
「ベタ」とか「お約束」とか、
言い方は様々だけれど、
多少の退屈に目をつぶれば、
心臓に悪い驚きの展開よりも、
安心して読めるのが嬉しいときもある。
ただそれはストーリーの一部とか、
でなければ部品である場面やセリフの設定であって、
盗作の域にいっては元も子もないし、
そもそもお約束など採用しては、
書き手の沽券にかかわる場合もある。
そんなことは言われるまでもなく、
書き手なら誰でも知っていることのはず。
だけど、お約束は死に絶えない。
連綿とお約束であり続ける。
そこを笑える人の観察眼に脱帽した。

設定として突飛なものはほとんどない。
なんのことはないあるパーティの展開。
酔っぱらった飼育員たち。
先輩と女性の後輩の飲み屋での会話。
なんでこんな場面を小説にするのか、
そして小説として成り立ってしまうのか、
甚だ疑問に思うくらい。
でも、そのなんてことはない設定と、
実際なんてことはない会話の進行に、
どうしようもなく笑ってしまった。
自覚している人間は少ないかもしれないけれど、
つまるところ「普通の」展開や会話というものは、
それが真面目な顔をして、
当たり前に進行していること自体が、
一歩引いて見ると喜劇なんだろうなと思う。
それを小説の形で再現してみせるのが、
この書き手の腕なのかもしれない。

その「普通」の状況を反転させて、
実際にはあり得ないだろう状況を作ると、
それはそれで別の笑いを生むものらしい。
日本放送協会さんが頑なに守ろうとする、中立性。
もしもそれを完全放棄して、
尊王攘夷かというくらいの姿勢でスポーツ中継をしたら、
一体どんな放送になるのか。
「偏向放送」はひらすらそんな風に進む、
実況のアナウンサーと解説役の会話しかない。
二転三転する解説の立ち位置が、
本当にお茶の間の気持ちに近いような気がして、
なんだこいつと笑いながら、笑えなかった。
熱烈な他国の国粋主義を軽蔑しながら忌避する雰囲気など、
所詮見せかけの姿勢で、
この解説ほどではないにしろ、
やっぱり「ニッポン頑張れ」「外人負けろ」と思う気持ちが
多少どころでなく胸の内にある。怖や怖や。

「花里商店街月例会議」や「超現実対談」で、
ベタや定番を笑う一方、
「復讐病棟」のような笑いを含んだ人情ものや、
「イヌ物語」のようなほんぼのとした話もあって、
九篇の短編で十二分に楽しめた。
中でも飼育員さんたちの忘年会の風景「酔中動物園」は、
担当動物によって飼育員さんたちがもつ思いの違いや、
それとは別に動物そのものに対する姿勢の違いが、
「無礼講」とお酒の作用でボロボロ出てくる様が、
動物園の飼育員なんて職業でも、
他の多くの職場と似たりよったりで面白かった。
まあ、最後のオチも人間よりであってほしかったですが。
この後の彼らの混乱と騒動を思うと、
気の毒になってきます。もちろんライオンさんも。

酔っているからでしょうが、
言うに事欠いて上司の娘夫婦に対して
「それ、自然繁殖ですか」はないだろう、ライオン担当…。
爆笑させてもらったけれど。
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