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2010.11.11 (Thu)

はじめまして、本棚荘


はじめまして、本棚荘
(2010/2/23)
紺野キリフキ

初めての都会、挨拶をしない隣人。
挨拶してくる猫。
金をたかる猫遣い。
眠りを追求する女子大生。
捨てられたサラリーマン。
サラリーマンを拾う大家。
そして、とげを抜くわたし。

本棚荘は彼らで出来ている。


【More・・・】

「R.O.D」のあの人のように、
ビル一つを本で埋めて、
古本屋の店主たちに恐れられることを、
一つの野望としてもっておきたいと思い、
自分が集めた本に、
潰されるように埋もれ死ぬような、
そういう死に方は悪くない、むしろ本望と思う。
そんな人間にしたら、
家賃は本やお話でもよくて、
壁も部屋の中も本棚に占拠されているアパートは、
夢のような場所のように見えて、
その本棚を一つも活用する気のない住人たちに、
ちょいとどころじゃない苛々を募らせた。
抜けないとげがじれったいのは分かるけれど、
とりあえず本を読みなさいと言いたい。

本を読むのが当の大家さんだけで、
他の誰も本棚の本来の用途を忘れているような本棚荘。
勿体ないという思いを横に置いおくと、
全くもって変な人たちだなあと思う。
自称猫遣いのダメな中年に、
眠ってばかりの女子大生、
なんでも出来そうなのに何もできない野良サラリーマン。
この面子が同じアパートに住んでいるだけで、
なんだか何か起きそうなのに、
とげぬきをしながら姉を待つ「わたし」自体が、
かなり妙な感覚の持ち主なものだから、
事態は反転して、結局何も起きない。
ただそれぞれの事情で関わったり関わらなかったり。
勝手なイメージで言えば、
二階建ての「アパート」の風景として、
その距離感は正しいような気がした。
物語としてはもう少し何か起きても良かったけれど。

「とげ」を抜くとげ抜き師。
それがただの木のとげではないことは、
最初の「とげ抜き師のいた部屋」でも明らかで、
その後にとげじゃなくて歯双葉が生えたり、
サラリーマンがとげだらけだったりで、
この姉妹が仕事として抜いているものが、
一体何なのか、結局最後まで分からない。
身を腐らせるとげがあり、
辛い過去を振り返ると増えるとげがある。
「とげ」を何か別の言葉で言い換えようと思えば、
適当な言葉が見つかるような気もするけれど、
抜かないでくれと言われるとげもあるのなら、
分かりやすい言葉で言い換えては、
何か損なってしまうこともあるのかもしれないなと思う。
とげの正体は気になりますが、
とげはとげ、ということにしておきましょう。

とげまみれになったせいでそうなったのか、
そうなったせいでとげにまみれたのか、
どちらにしろサラリーマンは他の住人とは違う。
世間一般からするとダメ極まりない住人たちも、
それでも金を工面したり退学届を書いたり、
現実に足を下ろしていると思う。
なのに、サラリーマンはどこかここではない場所を、
必死に探してさ迷っているように見える。
それこそ本当に捨てられたように。
そのままなら保健所ならぬ病院送りのところですが、
心優しい(?)本棚荘住人に拾われて、
結局とげを抜いても完璧に野良を脱しはしなくても、
なんだか幸せそうなのでまあいいか、と
拾って里子に出した子猫のその後を確認したような、
変な感慨を抱いてしまった。
…まあいいか。幸せにおなり、サラリーマン。

誰よりも上手くとげを抜くらしい姉。
彼女が妹に送ってきた電報の簡潔さと、
取り付く島もない文言に噴いた。
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