2017年06月 / 05月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫07月

2010.12.15 (Wed)

夜の光


夜の光
(2008/10)
坂木司

がははと笑って肩をくんだり、
頬を染めて手を握ったり、
言葉のキャッチボールに勤しまなくても、
彼らは触れ合うことができる。

一つしかない空と、
そこに散らばる無数の光が、
彼らの戦場を繋いでいる。


【More・・・】

素を晒す、というのが、
着ている衣服の枚数と関係があるなら、
世の中簡単だろうなと思う。
まあ、警察が大忙しになるけど。
さすがにそこまで単純じゃないにしても、
服は、特に制服というやつは、
風紀の乱れや犯罪を抑止する意味以外に、
着ることが一つの境目な気がする。
制服は所属を誰の目に見える形にすることで、
自覚と責任を生じさせる。
という効果には完全には頷きかねる。
ただ経験的に言えば、確かに気合いは入る。
さあ行くぞやるぞ、というような。
要は制服は戦闘服なんだと思う。
機関銃なんか持つまでもなく、
制服を着て立つ場所は総じて戦場なのかもしれない。
天文部の面々の認識は多分正しい。

スパイという言葉には、少し時代を感じる。
絶滅したわけでもないでしょうし、
そもそも存在を知られてはいけない存在なので、
本業の方々のことを存じ上げているはずもないんですが、
少なくとも平成の匂いはしない。
けれど隠れ蓑をかぶって日々を生きる自分たちを、
「スパイ」と称する彼らは天下の現代っ子、高校生。
おそらく彼らはあえてその言葉を選んでいる。
そうする理由には、
自分をヒーローや特殊能力者にしたがるような、
ガキ臭い感情なんて微塵もないんだと思う。
ギャル、女たらし、無口な大男、ほどよい優等生。
彼らはそれぞれが選んだ仮面をつけて、
その下からキッと未来を見据えている。
今いる場所はほんの短い間滞在するだけの、
苛烈な戦場であることを自覚しながら。
「スパイ」の響きの大仰なだけの軽さは、
日々負う傷の痛みを溶かし込むのに丁度良いんでしょう。

彼ら四人は三年間同じ部室に通い、
定期的に夜を一緒に過ごしてきたのに、
慣れはしても、馴れ合いはしない。
お互いが別の集団に属することを尊重し、
同じ「スパイ」であることさえも、
決して盾にも縄にもしないなんて、なんとも大人な関係。
すぐ横を文化祭や禁断の恋が通り過ぎて行く時
彼らはそういうものを謳歌する少年少女を、
軽蔑も羨望もなく、ただ見送っているように見える。
だからと言って冷めきっているわけでもなく、
つまりは人やイベントに対するその距離感自体が、
彼らの青春の温度なんだろうと思う。
キャンプファイヤーに猛らなくても、
それを見下ろしながら屋上でものを食べることは、
やっぱり彼らにとっても特別で、
別の戦場へ旅立った後も振り返る時間になる。
スパイにだって当然青春はあっていい。

四人の敵はどれも、
強敵なのに一人で戦うしかない相手で、
しかも制服で立つ戦場よりも、
はるかに長い間戦い続けなければいけない。
そして彼ら自身が分かってしまっているように、
おそらく勝つことはできない。
負けないでいることくらいが精一杯。
そんな戦いは意思を削り取るばかりのはずだけれど、
戦いを投げず、誰一人敵に寝返らない彼らは、
正真正銘スパイのように見えた。
スパイの信条は裏切りではなく、
むしろ雇い主に対する義理と責任だと思う。
その意味で彼らはコードネームをもつ資格がある。
ギイ、ゲージ、ジョー、ブッチは、
主たる自分を決して裏切らない。
格好良かった。

単純に設定だけを見ると、
星は歌う 」のようだけれど、
ロマンス成分は低めになっております。
なんて言ってはゲージが泣くか。


スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


10:00  |  さ行その他  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/258-4a7d8fe8

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |