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2010.12.31 (Fri)

猫たちの聖夜


猫たちの聖夜
(1997/11)
アキフ・ピリンチ

獣は戦いを好まない。
牙を突き立てることは、
同時にそうされる危険を意味するから。

ケダモノは血を厭わない。
目的のために流されるものは、
犠牲と呼んで尊ぶべきものだから。

人は獣かケダモノか。
そして伴侶たる彼らは、
一体どちらの岸の住人なのだろう。


【More・・・】

人の世界でサスペンスを起こすには、
密室やナイフや崖が必要で、
そのどれも猫たちには用意しにくい。
何しろ彼らの手は、
鍵を締めるにも刃物を握るにも適さない。
高いところは好きだけれど、
波がザッバーンな風の冷たそうな場所なんて、
多分お気に召さないでしょう。
では彼らにはサスペンスは向かないか?
いやはやそんなことはなかったようで。
被害者は猫、加害者もおそらく猫。
そして証拠を握るのも探偵も猫。
舞台は雪のちらつくロンドン郊外。
彼らの陰惨な事件はまぎれもないサスペンスでした。

猫目線の物語はいくつか思いつきますが、
訳者あとがきで触れられているように、
ここまで人間がフレームアウトしているのは、
なかなか珍しいような気がします。
青髭が猫飼いたちのことを、
何度も「缶切り野郎」とのたまうのも然りで、
人間はたまに餌を出す程度の出演。
事件はどこまでも猫を中心として、
猫の目線で進んでいくので、
地下のカタコンベが出てきた辺りから、
いよいよファンタジーだなーとか思っていたら、
最後に連れて行かれたのは、
目を背けたくなるほどのおぞましい真理で、
しまったやられたと思った。
老いた天才パスカルの非現実的な存在感に騙されて、
まんまと作者の思惑に乗ってしまったようです。

発情や喧嘩の作法など、
猫の行動様式に関する描写がやたら詳細で、
読みながらこの人も「缶切り野郎」だなと思った。
それだけにパソコンを自由に操ったり、
カタコンベでのイェザヤの仕事ぶりなんかに、
頭脳がどうのではなく体の仕様の問題で、
いや猫にそれは無理だろ、とか
妙に冷静に突っ込みを入れてしまった。
探偵役のフランシスは確かに頭が良くて、
論理的な思考力と記憶の力には、
単純に舌を巻くしかなかったけれど、
彼の見る夢は妙に人間臭い恐怖に満ちていて、
彼が悪夢に飛び起きる度に、
いつ人が猫になった夢を見ていた的オチがつくのかと、
半ば本気で期待していたように思う。
犯人との問答の際に彼自身が言っていたように、
人間のようなのは、フランシス君の方だよ。
その良し悪しは別にしても。

フランシスの悪夢といい、
過去に起きた事件の描写といい、
猫好き、でなくとも動物好きには辛い描写が多い。
でも、とても単純に考えたとしても、
その阿鼻叫喚の地獄から目を背けていては、
フランシスの言う希望を抱く資格さえないんだと思う。
クラウダンドゥスの経験したものは、
確かに今現在もこの生活を支えているし、
その上に寝起きする以上、
罰せられるべきは社会の構成員全員なんでしょう。
一方で、フランシスの人間臭さは脇に置いておくとして、
猫である彼が人を信じてくれることが嬉しかった。
どうしようもない孤独な男、グスタフを、
「相棒」として愛していると、
臆面もなく表明できるくらいに、
彼にとってその感情は確かなもののようで、
こんな風に想ってもらえるなら、
いくらでも彼らに膝を折ってしまうと思う。
瀕死のフランシスを見つけたときのグスタフに、
このダメな男の愛を見た気がした。

天才パスカルよりも、
イカす探偵フランシスよりも、
みんなの兄貴的青髭が大好きです。

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