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2011.01.01 (Sat)

泳げ、唐獅子牡丹


泳げ、唐獅子牡丹
(2008/6/12)
菊池幸見

男には背に負うものがある。
獅子と二輪の牡丹。
けれどそれは所詮皮膚の上のもの。

本当に裕次郎が負っているのは、
愛。
何度でも言おう、愛だ。


【More・・・】

名前を与えて認めるから、
存在が固定化するんじゃないか、と
暴力団関係のニュースを聞くたびに思っていた。
だからと言って見て見ぬふりをしていても、
何の解決にもならないのも一つの道理で、
結局は方々の努力にかかっている、んでしょう。
という社会秩序におもねった思考とは別に、
姐さんとか組長とか仁義とか、
まあ要は任侠映画的世界には、
それなりに、というかかなり、
心くすぐられるものがあったりします。
諸々のきな臭い事情を無視すれば、
あの世界の理はサムライのそれのようで、
そういう部分に惹かれるんだろうなと思う。
…要約すると、裕次郎、格好いい。

刺青を背負って飛び込む表紙から、
不遇の青年のあっつい青春、とか
青春をドブに捨てた中年のやり直し、とか
その辺りを想像して読み始めたんですが、
裕次郎は青年というには純真さに欠けるし、
中年というには疲れも諦めもない。
でも青年に負けず劣らずの情熱はある。
大人の男としての責任感も申し分ない。
若き社長で夫でパパで、
信頼もあるし仕事もうまく行っている。
過去に高校を中退した二十八歳としては、
順風満帆と言っていい人生だと思う。
ヤクザであるも刺青を入れたことも、
裕次郎は後悔していないのだから、
この男には引け目ってものがないのか、とか
そう思ったりもしましたが、
カタギに対する姿勢が見えてくるにつれて、
黒澤裕次郎の男っぷりに惚れました。

水泳に関する描写は、
はるか昔のスイミングスクールを思い出して、
やたらと懐かしくなった。
S字ストロークの際の水の重みや、
ターンのあと、水中から見たプールの天井、
前を行く泳者のたてる白い飛沫…。
そういうものだけでも、
何の目的もなくプールに行きたくなる。
裕次郎のしなやかな獣のような泳ぎも、
神村くんの力任せの若さあふれる感じもいいけれど、
加山さんの自制的な泳ぎにきた。
選手レベルでは全くないにしても、
自分もスピードより一定に長くのタイプだったので、
そのペースを崩すことの怖さや、
崩した後のまさに「しゃにむに」の快感には、
父権の回復云々は別にして高揚した。
あー泳ぎたい。もちろん温水プールで。

水泳は物語の重要な要素だけれど、
基本的にこれは任侠もの、というか
男そのものの話なんだという気がした。
裕次郎はヤクザなので、
敵対組織に怖い脅しを仕掛けもするし、
ドスを持ちだしたりもするけれど、
それ以上にこの人にとって大事なのは、
裏切らないこと、それ一本なのだと思う。
ヤクザの組長としての責任を、
過去をもつ泳者に負わされる期待を、
そして妻からの愛を、妻への愛を、
裕次郎は裏切らない。
どうしようもない状況だとしても、
負けると分かっている勝負でも、
愛に報いるそのためだけに、
裕次郎は文字通り命を懸ける。
男の全てがそうでなければいけないなんてことはない。
でも、そう在れる男はとにかく格好いい。

様々な才覚をもつ裕次郎だけれど、
幽体離脱の才能に関しては、
舎弟に叶わない。
すごいぞ、ヒロシ。

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