2017年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2011.01.16 (Sun)

銀天公社の偽月


銀天公社の偽月
(2006/9/28)
椎名誠

彼らの世界が、
この世界の地続きでもそうでなくても、
物語はおそらく変わらない。

見知らぬ場所で、
見知らぬ者モノが物語をしている。
観客は視野の外に追い出して、
てらてらと光る脂雨に打たれながら。


【More・・・】

昔話の世界は大抵ひどく狭い。
一つの家庭、一つの村、
あるいは登場するために存在する幾人か。
それだけで世界は完結している気がする。
桃太郎の家の裏や川の対岸には、
真っ黒な崖っぷちが口を開けていて、
鬼が島へ続く以外には、
道はどこへも繋がっていないような。
脂雨が降りしきり、
ゆっくりと水没していくこの物語世界は、
多分、桃太郎的お話の対極にある。
半分死んだような腐ったような世界は、
物語の外、はるかな場所まで続いている。
物語のリズムに酔いながら、
その茫洋とした眺めに呆然とした。

「滑騙」という怪獣のような生き物や、
「掌撃針」という暗器のような物。
それからほぼ全編で降っている「脂雨」。
どれをとってみても、なんだか不安になる語感で、
終末の世界を思い浮かべながら読んだ。
実際、どうやら大きな戦争の後らしく、
公害が可愛く見えるくらいのダメージを、
世界全体が負っているような描写もある。
でも、それはあくまで雰囲気だけで、
結局この世界は何なのか、
そもそも現実世界と地続きの設定なのか否か、
登場人物たちは一切語らないし、
書き手にも説明する気はないらしい。
いきなり訳の分からない世界に放り出されて、
序盤はどうしたものかと思いましたが、
そこに蠢く物モノを見ている内に、
舞台の仕様などどうでもよくなりました。

舞台上で動く演者には、
もちろんそれぞれにドラマがあって、
照明はそこにあたっている。
でも、おそらくは同じ世界に存在する、
七篇それぞれの主人公たちは、
誰一人として舞台の中心にはいないように見えた。
彼らは世界の端っこでただ黙々と、
誰のためでもなく演じている。
なんだか仲間外れにされている気がした。
舞台には馴染みのない名と物があふれ、
演者たちは愛想の欠片もない。
なのにどうして彼らに惹かれるんでしょう。
冷たくされて喜ぶ趣味はないはずですが、
それでもどうしようもなく「爪と咆哮」の閉塞感や、
「塔のある島」の緩やかな死の気配に、
前のめりになってしまう。
本当に、何なんだこの世界は。

とはいえ結局何が蠢いているのか、
分かった話は一つもなかった訳ですが。
冒頭の「滑騙の夜」では、
何かの反勢力グループの若者たちが、
決死の行動に出るその前夜であるらしい。
表題作では偽月を昇らせる作業員が、
無感動に人を殺している。
ただ「、ウポの武器店」のトーノタダオは、
少なくとも人間でしかも日本人っぽいし、
滑騙とのリンクから考えて、
反政府勢力のリーダー的なことなのかとは思う。
なぜか一人で放浪しているし、
リーダーの割に情けない感じだけれども。
訳は全く分からないながら、
少なくとも確実に死にかけてはいる彼らの世界。
でもまだ死んではいないから、
どこかで物語が発生したりする。
要はそんなことなのかもしれない。

姿形をイメージできない名称の嵐の中で、
「脂雨」だけは強烈に怖気がした。
せめて「油」ならまだマシなのに。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


21:11  |  さ行その他  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/272-afbf5dcf

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |