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2011.02.18 (Fri)

炎の蜃気楼34 耀変黙示録Ⅴ 天魔の章


炎の蜃気楼34 耀変黙示録Ⅴ 天魔の章
(2002/6/1)
桑原水菜

理由いかんによって
命を奪うことの是非が揺らぐとしても、
自前の体と魂で生きることが、
悪であるはずもない。

奪われた体と、
切り刻まれた時間の前に、
立ちつくす魂は、正しい。


【More・・・】

敵とはどういう存在なのか
あまり考えたこともなかったけれど、
公使入り混じった憎悪に焼かれるようにして
一も二もなく信長を敵を認識する高耶を見ていると、
それは単なる害なすものではないのだと思う。
少なくとも高耶は信長が暴虐な魔王だから、
それだけの理由で敵対しているわけではない。
多分そこには高耶の、あるいは景虎の、
アイデンティティみたいなものが深く関わっていて、
語弊を承知で言えば、
敵を敵にするのは自分以外にないんでしょう。
文字通り牙を剥いて憎悪をまき散らしながら、
信長の中に自分を見る高耶はそれに気づいている。
それでも憎まずにいられないから、煩悶する。
もっと単純に、それこそ獣のような殺意だけをもてたなら、
この人はこんなに苦しまなかったのかもしれない。

闇戦国の起点にいた那智の者。
兼光晋吾のことや何やらから考えて、
そこに黒幕がいなかった訳もないんですが、
むしろ信長でない方がおかしいくらいなのに、
不思議と高耶に同調して絶望した。
「闇戦国」という自然現象の一部として、
信長が他の武将と同じ位置にいたなら、
それは本当にあの時代のやり直しで収まる。
たとえ起点にある一族の恨みや復讐がからんでいても、
あくまで闇戦国は偶然の産物であれる。
三十年前の一件からどれほど信長を憎悪していても、
多分景虎はそうあって欲しいと思っていたような気がする。
そうではないと本人に告げられたとき、
高耶がかつてないほど怒り狂ったのは、
怨将と言われる存在でありながら、
この人は誰のことも恨みたくなかったからだと思う。
直江に言わせれば、その想い自体が保身であり弱さであり、
「あなたは卑怯な人だ」とかなるのかもしれないけれど、
全身で怒れる人の優しさを思った。

信長の過去の所業と将来的な野望は、
確かに過去に高耶が考え、直江に否定されたことと似ていて、
思わず魔王の口車に乗せられそうになったけれど、
重野カオル視点の語りを読んで、
理というのはもっと単純なのだと思い出された。
魂が体に宿っていて、体を換えることも可能だとしても、
カオルが混乱の中で叫ぶように、
体も魂も、生まれたとき持っていた全部がそろって始めて、
その人はその人になる、その通りだと思う。
まあそうすると「景虎」も「高耶」も、
その他多くの換生者・憑依者たちの存在は全否定だけれども。
そんなこと百も承知で、それでも存在せずにはいられないから、
「奪って」存在することの是非を、
赤鯨衆も高耶も自分と世界に問いかけているんだとも思う。
でもだからと言って生まれた体と魂で生きることが、
正しくないはずもないのは確かで、
カオルの煩悶は誰よりも真っ当だと思った。

愛には六つの種類があるそうだけれど、
直江を突き動かしているのは、
一体何なのだろうと今さら考える。
愛だと言うことさえ何か違う気がする。
ただ少なくとも本当にこの男は、というかこの二人は、
「愛」の名の下に自分を正当化するとか、
そういう類の逃げを打つことだけはしないんだなと思った。
「あなたのため」と言ってしまえば、
直江は種との戦いも裏切りの罪悪感も捨てられる。
「お前のため」と言ってしまえば、
高耶は重いものをみんな背から下ろして、
残り少ない時間を自分のために使うことを選べる。
どちらか一方でもそうすれば、
二人とも楽になれるのに、と思いながら、
そうしてしまったらもう終わりなんだろうとも思う。
まあ、そんな大仰な話ではなくても、
「十年」という信長の言葉が案外真実かもしれないけれど。

困った時の何とやらよろしく、
人でも獣でも、衛士でも、
颯爽と馳せ参じる小太郎にまた惚れた。

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