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2011.04.03 (Sun)

孤独か、それに等しいもの


孤独か、それに等しいもの
(2006/9/22)
大森善生

痛みが外から見えないのなら、
せめて心に負ったそれから流れ出るものも、
体と同じに目に見えたらいいのに。

そうすれば、
一人で耐えてしまう彼らに対して、
してやれることがあるだろう。


【More・・・】

誰だって首を落とされれば死ぬし、
ナイフ一本でだって致命傷になり得るけれど、
そういう体の構造上の耐久性とは別に、
痛みに耐える力は人によって差がある。
生来の我慢強さの他に、
おそらくそこには経験の影響があって、
小さな子供がこけただけで大泣きするのは、
その痛みをそれまで知らなかったからでしょう。
経験を重ねることによって、
人は痛みに慣れていくものなのだと思う。
それはつまりその痛みが命に関わるかどうか、
体が覚えていく過程でもある。
もしそうならば、本当に致命傷を負ったとき、
それが致命傷だと判断することは、
多分とても難しいんだと思う。
傷の深さに無自覚だった人々の物語を読んで、
その点では精神も体と大差ないのだと思った。

「八月の傾斜」という一篇目の題名を見たとき、
やはり「一年」のイメージは色々なのだなと思った。
自分にとって一年は左回りの陸上競技のトラックの形で、
八月はちょうどカーブの辺りにある。
そんな風に考える人間もいるくらいだから、
八月に傾斜を感じる人間がいても不思議じゃないなとか、
かなり的外れなことを考えながら読み始めました。
裕子にとっての八月は文字通りの傾斜、
もっと低くて暗い場所へ落ちていく前段階で、
そこに下向きの角度がついてしまったきっかけは、
些細ななんてとても言えない痛みに満ちている。
その瞬間に決定的に壊れてしまう人もいるだろうに、
裕子は壊れなかったし、立ち止まりもしなかった。
そこで倒れられなかったことが、
多分「傾斜」の本当のところの原因なんだろうと思う。
袈裟がけに斬られているのに気づかなくて、
寝返りをうつ度に血まみれになっているような。
失ってできた場所には新しいものを運び込めるなんて、
さらりと言えてしまう早津はきっと正解だと思う。

裕子は失った年から毎年傷の痛みに苦しんできたけれど、
「孤独か、それに等しいもの」の藍や、
「ソウルケージ」の美緒さんは、
おそらく傷があって痛みを生んでいることにさえ、
本当に無自覚だったように見えた。
自分とほぼ等しいはずの妹や、
唯一の存在だった母親を失うことが、
傷にならないはずはないのに、
彼女たちは生きることをやめる訳にはいかなくて、
必死に踏ん張ってしまったんだと思う。
そのひたむきさには恐れ入る。
それでもやはり傷ついたそのときに、
泣いて喚いて、理不尽には怒るべきだったのだと思う。
多分そうした方が、傷の治りは早い。
美緒さんにはそれを許してくれる人間もいなかった訳で、
結局決壊してしまったにしろ、
十年以上もったのは一重に彼女の強さの結果なんだろうけれど。

「だらだらとこの坂道を下っていこう」では、
決定的な傷を負った人はいない。
まだ何も失われてもいないし、
他の4篇の主人公たちにそれぞれあったような
そのきっかけになる出来事さえ起こっていない。
でも何かが失われて、終わっていくときというのは、
むしろこの夫婦のような場合の方が多いのかもしれない。
「僕」が考えているように、
いつの間にか道は終わりに向けて下っていて、
大部分の人はその傾斜の変化にも気がつかないのだと思う。
そうして苛々したり焦ったりして、
さらに勢いよく坂を転げ落ちていく。
けれど幸運にも下っていることに気がつけたなら、
きっとスピードを緩めることは出来るんでしょう。
うまくすれば、底に辿りつく前に、
命の方が先に尽きてくれるかもしれない。
「僕」と由里子さんは多分後者になれる。
下っているのに、なんだか幸福な一篇だった。

生まれ変わったら男か女か、
それは割とどうでもいいけれど、
双子にはちょっとなってみたいと思う。

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