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2011.04.09 (Sat)

スナーク狩り


スナーク狩り
(1992/6)
宮部みゆき

二本のコードのどちらかが、
爆弾を作動させるなんて、
良心的な選択だと思う。

現実には、
数多の選択肢だけが与えられて、
結果なんて教えてもらえない。

その一歩のせいで、
明日や50年後に誰かが死ぬとしても、
出来ることは選ぶことだけだろう。



【More・・・】

色々な理由で国が訴えられるとき、
テレビの前で憤ることがある。
正義は常に原告の側にあって、
少数派である彼らをないがしろにし、
義務を怠った「国」に怒りを感じる。
けれど、テレビの前で怒っている限り、
自分は原告ではない。むしろ被告なのだとも思う。
おそらく「国」という組織のどこかの部分で、
誰かが何かを怠ったり、認識が甘かったり、
そういうことがあったからこそ事件は起きるんでしょう。
でも、その「国」を成すのはテレビの前の数多の他人で、
国を動かす者たちを選らんだのも自分たち。
責任というと傲慢な気もするけれど、
少なくとも安穏と原告たちに同情するのは違う。
模倣犯」のときにも感じたように、
加害者と被害者、テレビの中と外、
そして善意と悪意の境目はひどく曖昧なのだと思った。

木田クリニック前でのあの瞬間に至る、
その発端をどこかに求めるなら、
直接的には織口さんが「遺族」になったとき。
細い糸を辿るようにもっと遡れば、
たとえば二人の容疑者善の幼少期とか、
あるいは本人も後悔しているように、
織口さんが妻子と離れたとき、という答えもあると思う。
ただ、それが惨劇であっても美しい思い出であっても、
いくら遡ったところで、分岐が増えるばかりで、
どこか一点に辿り着くことは多分ない。
そんなことは織口さんだって知っていたはずで、
それでも裁判を傍聴し続けて、
どうにか理不尽を消化しようと足掻いて、
そしてそれに疲れて「答え」を単純化しまったんだと思う。
それは二人の若者が車欲しさの前で殺人を手段にしたのと、
構造的にはほとんど違いがないような気がする。
確かに「遺族」になることに直接の選択の余地はなかったし、
「加害者」という選択肢は「遺族」を前提にしているけれど、
織口さんはやっぱり選んだんだと思う。
「被害者」同士だなんて、範子さん、そんなことはない。

たとえそれが散弾銃を盗み出すことや、
披露宴会場で自殺を企てることであったとしても、
織口さんと慶子さんの行動には納得できた。
彼らを動かしているのは怒りや復讐心、そして疲れで、
その背景になった事情も、言ってしまえば分かりやすい。
もしも彼らの立場に立たされたなら、
選択肢としては自分も考え得る範囲な気がする。
神谷さんの板挟み状態にしても、
同類相哀れむという感じで理解できた。
そんな中でよく分からなかったのが修治。
事情をただ一人理解し、織口さんを止めようとするのは、
とても真っ当で、賢いかどうかは別にして正しいとは思う。
でも、違法であることを分かっていながら、
散弾銃を持って深夜の長距離ドライブを敢行し、
車を盗んだり、更には銃撃戦の中に飛び込んだりなんて、
そこまでさせるものが一体何なのか分からなかった。
秘密の共有と言ったって、重さが違い過ぎるのに。
それとも、「お父さん」を助けようとすることに、
それ以上の理由を求める自分の器が小さいだけなのか。

実際のところはどうなのか知りませんが、
フィクションの中で見る限り、
殺人事件の裁判において重要なのは証拠と殺意で、
証拠はまだ手にとって見られるだけいいけれど、
殺意の立証というのは一体何なのかと思う。
執拗に凶器を突き立てたり、
実際に殺す意思を口に出すことが殺意を裏付けるなら、
逆に言えば、そういうものなくして、
殺意を立証する術がないのなら、
修治が二人の死について法的に罪に問われる謂れはない。
でもおそらく世間はそう思わないし、
何より修治だけは自分の殺意を知っている。
状況的には完全に正当防衛であったとしても、
死にたくないの前に、殺そうと思ってしまったことが、
おそらくこの先ずっとこの男の傷になるんだろうと思う。
多くの選択の末にあるあの一幕とその後の事態の拡散において、
誰が負った傷よりも修治のそれのことで苦しくなった。

織口さんにしても修治にしても、
最善を選んだわけではなかったと思うけれど、
一番愚かしいのは慎介で決まりだと思う。
弁護士の卵のくせに殺人なんて、
リスクと利益も天秤にかけられないのか。

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