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2011.05.10 (Tue)

陰陽ノ京 巻の三


陰陽ノ京 巻の三
(2002/5)
渡瀬草一郎

その時はくる。
自分ではない誰かのために、
守りたいもののために、
命を使うべき時が。

でもそれは、
迷いの中にある若者たちに訪れるものではない。
命を投げ打つには、
彼らの心はまだ重すぎる。


【More・・・】

ペットは家族だというセリフは、
数十年前ならいざ知らず
今では否定した方が非人間扱いされる。
小さな頃から老いて死ぬまで、
一生を共にするという意味では、
確かに彼らはとても近しい存在だと実感として思う。
でもここで思い浮かべる「ペット」には、
少なくとも自分のそれは、
犬や猫や鳥や亀や、つまりはそういう奴らで、
百足や油虫を撫でて家族だと言われても、
犬猫と同じようにはそうかと思えない気がする。
意地の悪い言い方をするなら、
自分の感情を映し見て愛せる限界が、
つまりはその辺りにあるということなんでしょう。
人に造られ、人を食い、人に封じられた、
おぞましいほど巨大な節足動物の中に、
心と呼べるものがあるかどうかについて、
誰も考えようとしないことが少し悲しかった。

今までは想いに取り憑かれた人と、
それによって生じた呪いが相手だったので、
保胤らが生きる平安の京に、
化けなんたらというような妖物がいるのが、
なんだか序盤は違和感があった。
まあ龍だの天狗だのが普通に出てくるので、
そういうものがいるのは不思議でもないんですが、
陰陽寮総出での百足封じの様子は、
一般的な陰陽師のイメージからしたら、
むしろあるべき姿なのにも関わらず、
この人たちも肉体労働するんだなあという変な感慨が。
晴明は年の割に飛んだり跳ねたりしてたので、
百足との追いかけっこになっても安心して見ていられたものの、
保胤の危なっかしいことと言ったらない。
能力的には陰陽寮で現役の者と変わらないんでしょうが、
何分普段が普段なので、心配になってしまった。
光榮や兼良たちのサポートも、逆に不安を煽っていたような。
陰陽師というのは変人ばっかりなんだろうか。

自ら人をやめて腐り果てたような魂にさえ、
哀れみと同情をもたずにいられない男が、
人の業の産物である化け百足に対して、
ほとんど表立った迷いを見せないことが、
一瞬腑に落ちない気もしましたが、
1巻での振る舞いを思い返せば、
他者に対する哀れみと利己心どちらも捨てず、
どちらを選んでももう片方に責め苛まれることを是としながら、
頑としてどちらかを選ぶようなこういう振る舞いこそ、
むしろ保胤という人なのかもしれないと思う。
利己心とは言っても、
自分自身の命にはそれほど重きをおいていなくて、
手の届く範囲の大事な他人のことばかり考えているから、
訃柚には釘をさされ、時継にはため息をつかれることになる。
考え方は貴いし潔いとも思うけれど、
保胤はもっと自分が想われていることを自覚したほうがいい。
迷う晴明には開き直ったと言てはいても、
光榮に迷いを見透かされている辺り、
この人は全く人に恵まれていると思う。

思えば1巻で片付いたのは、
鷹晃の迷いというより朝晃の因縁だったわけで、
半分は人でないことや、
保胤と同じように過ぎた力をもっていることは、
鷹晃の中でまだ変わらず痛みを生んでいたようで、
まるで人のためにならなければ、
存在すること自体がいたたまれないかのように、
身を削ろうとする鷹晃が保胤に重なって見えた。
紗夜姫の「ぶんなぐってやろうかと思った」には、
つい笑ってしまったけれど、
実際ぶん殴ってでもやった方がいいかもしれない。
小太郎が保胤に言っているように、
また蘇芳が死すべき時を自ずと知ったように、
自分の命を投げ出して何かを守るには、
保胤も鷹晃も若すぎるし、
彼らのそれは半ば自己肯定の一部のようでもあって、
そんな形で守られてはたまったものじゃない。
紗夜姫も時継も、ついでに吉平に対する貴年も、
もっとがっしり手綱を引いてやれと思う。

百足に対して迷いを見せたり、
聡い息子の気持ちが分からなくてやきもきしたり、
普段飄々とした晴明が今回はなんだか可愛かった。

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