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2011.05.13 (Fri)

他人事


他人事
(2007/10/26)
平山夢明

痛みには耐えられる、なんて
そんな物言いは、
十分の九殺しくらいの目にあって、
はじめて言えることかもしれない。

外見上や内面の人間性云々の前に、
痛いのは、嫌だ。怖い。
だから登場人物の誰にもなりたくない。


【More・・・】

どちらにしろ極端だとは思うけれど、
どちらかと言えば性悪説よりは、
性善説の方が自分の考えに近いと思う。
単にその方が明るい気分でいられるから、
そう思いたいだけかもしれないけれど。
人間の本質が悪であろうと善であろうと、
その程度に幅があることは間違いない。
自分を殺してまで他人を助ける人間に、
尊敬のまなざしが向けられるのは、
それが「普通」の善良さから逸脱しているからで、
そう考えると、「他人事」のあの男も、
要はベクトルが違うだけのことなのだと思う。
誰もがもっている無関心と面倒を嫌う気持ちが、
少しばかり度を越しているだけ。
そこに恨みや復讐の気持ちが入っていたなら、
まだ腑に落ちる部分もあったけれど、
そんな安易な納得など許さず、みんな死ぬ。
手触りの悪い共感だけが残って、ぞくぞくした。

十四篇の気持ち悪い話からなる短編集。
表紙からしてそうだろうとは思っていたけれど、
一篇目の「他人事」を読んだ時点で、
もう期待通りの悪い予感しかしなかった。
背筋を凍らせるような怖い話ではなく、
爪の中がぞわぞわと疼くような話ばかりで、
それこそ善なる心を総動員させて考えれば、
哀れな、と言って差し支えない人もたくさんいるのに、
誰ともお知り合いになりたくないと思ってしまった。
残念ながらというか幸運にもというか、
知り合う合わないを問題にできる人間なんて、
いくらもいないのだけれど。
なにしろ人死にが出ていないのは「伝書猫」くらいで、
他は誰か彼かが死んでいるし、
語り手というくくりをつければ、全滅も多い。
誰の死も理不尽で無意味で怖気が立つ。
全くいい仕事するなあと思う。

「しょっぱいBBQ」や「倅解体」のような、
本当に気持ち悪くて意味が分からない話も、
気味の悪さの度合いが好みではあるんですが、
グロテスクさと理不尽さが重なった結果、
滑稽さに転じてしまった話の方が楽しい気がします。
その二つを重ねて滑稽さを感じているのは、
もしや人間性的に問題があるのではとも思いつつ、
定年を過ぎた途端に世間が反転する「定年忌」なんかは、
新しい形の姥捨て山の話のようでもあるので、
多少そこに風刺を見るべきなのかもしれませんが、
お疲れ様、ありがとうからの怒涛の責めは、
情景だけみるとどうにも笑ってしまった。
いわく理性的になったらしいけれど、
この調子では定年後生き残るのは至難の業でしょう。
なんちゃってチンピラをやった挙句、
路上で若者に刺殺されたオカムラなんかは、
無事に妻と別れられただけマシだったのかも。
日ごろの行いは良くしておくに限る。

残酷さという意味では、
「恐怖症召喚」は十四篇中で上位に入りますが、
この話はなかなかに沁みるいい話でした。
坊さんがニーニャの目を吸ったときには、
もっと早くそうするべきだったのに、と思ったものの、
ひたすらこの少女のために動いている人間が、
それを最初に行わなかったわけもなかったようで、
「俺」の手を握る坊さんに頭を下げたくなった。
目をなくしても二ーニャの力は変わらなかったけれど、
少なくとも彼女は自分がしたことの結果を、
目にすることだけはなくなったわけで、
もしもそのことも含めて坊さんが目を奪ったなら、
幼い少女から光を奪うことの残酷さは、
許されて余りあるのではないかと思う。
そして、「俺」の性質も善である気がする。
同級生を逃がそうとしただけでなく、
坊さんが殺されることを防ごうともした。
その結果自分が追い込まれるだろう立場を承知しながら。
二人がかの国に辿り着けるといいと思う。

この経済と国土を失っても、
自分が日本人のままでいられるか、とか
焦点のずれた考えにたどり着いた、「人間失格」。

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