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2011.05.25 (Wed)

犬はいつも足元にいて


犬はいつも足元にいて
(2009/11/7)
大森兄弟

決して裏切らず、
ひたすら従順な影のような獣。
黒く大きな、「犬」。

その瞳に見つめられて、
背筋を伸ばすか。
それとも恐れおののくか。

「犬」は見ている。

【More・・・】

両者が対立項であるわけのもないのに、
犬か猫かの二者択一がありがちなのは、
その性質が真逆だと思われているからだと思う。
犬は人に従順で健気な生き物で、
猫は自由を愛する気まぐれな生き物。
どちらとも暮らしたことがある経験から考えると、
確かに種としてのベースの部分で、
そういう面はあるような気がする。
もちろん性格は一匹として同じじゃないし、
年齢を重ねることによって性質は変わる。
その点では人と同じだとも思うけれど、
一方で「僕」が「犬」を見て思っているように、
犬にも猫にも共通して言えるのは、
彼らがどこまでも獣だということで、
決して下等だとかそういうことではなく、
人とはそもそも基礎の部分の造りが違うのだと思う。
「犬」の目を「僕」が恐れるのは、
自分の地盤の脆さだけではなく、
もっと根本的な、人であることの劣等感のようなものを、
「僕」が感じているからのような気がした。

「僕」の世界は緩やかにひずんでいる。
片親の家庭で、学校に友だちはいなくて、
自分に従順な「犬」に半ば怯えていても、
「僕」の生活は全体としては平穏で、
とりたてて大きな亀裂があるわけではないのに、
母親との関係、サダとの関係、
それから「犬」との関係をそれぞれ眺めると、
どれもひしゃげているように見えた。
一番顕著なサダとの関係の歪さの原因を、
「僕」はサダの粘着性に見ているようだけれど、
彼らが救いのない所までいってしまったのは、
必ずしもサダにだけ問題があるわけではないと思う。
多分同じことが母親との関係にも言える。
確かにサダにも母親にも問題はあって、
そのために「僕」が迷惑を被っている面もある。
でも彼らに対する冷やかで正確な目をもちながら、
関係改善のために自ら動こうとはしない以上、
「僕」には被害者面する資格はないと思う。

「僕」の視点で見るサダという少年は、
粘着質で押しつけがましくて、
自意識過剰で自分の願望しか見えていない、
なんとも嫌な子供になっているけれど、
この子のもっている性質は、
なんだかどれをとっても懐かしくて、
もう傷が治っているのに包帯を見せびらかしたり、
希少な友人に精神的に依存しながら、
それを決して認めようとしなかったり、
そういうことがみっともないものだと分かってからは、
自制心と羞恥心で抑えてきた欲求に、
サダはまだ思いのままに従っているように見えて、
なんて嫌な、と思いつつも、
サダの歪みが愛しいもののようにも感じた。
さすがに自分の頬を裂くような真似はしなかったけれど、
サダは自分が幼いことも知らないほどに、
未熟で阿呆だった私自身のようだと思う。
それだけに「僕」の視点が痛いんでしょう。

「犬」を恐れ、世界を疎みながら、
「肉」の悪臭と醜悪さから離れられない「僕」が、
何をそんなに憎悪しているのか分からなかった。
サダを契機にして冷たく発動した衝動が、
母親を中心とした生活を壊しそうになったとき、
「僕」が冷静な顔をして動揺したのは、
ただ少しばかりうまく自分をごまかしているだけで、
彼がサダと似た未熟さをもっているが故かもしれない。
最後の場面でサダの頬に手を伸ばしたとき、
多分「僕」は自分が疎ましく思っているものでさえ、
自分よりはるかに強靭であることを知ったのだと思う。
嘘や「肉」や悪意によって、
「僕」がいくら彼らを貶めようとしても、
サダの傷は直り、母は多分父を殺さず、
「犬」は決して「僕」を裏切らない。
「僕」の視点から見た世界の歪みは、
つまるところ世界の揺らがなさを認めることも出来ない、
「僕」の小ささの裏返しだったのやも。
そう考えると、「僕」もサダも同じなのか。

「犬」の賢さと従順さは、
裏を返せば生への強かさで、
やはり「僕」などが敵う相手ではないと思う。

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