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2011.05.26 (Thu)

最期の教え


最期の教え
(2005/12)
ノエル・シャトレ

自ら始めることは出来ないけれど、
自ら終わらせることは出来る。
誰にもあげることは出来ないけれど、
誰かと分けることは出来る。

死を決めた母と交わす、
命に関わる全てについての対話。


【More・・・】

小さな頃、将来の夢について語るのは、
とても簡単なことだった。
「大きくなったら」と尋ねられるたび、
本当になりたいとは思っていなくても、
大人が満足しそうなことを適当に言って、
はにかんで見せればそれで良かった。
あの頃の「将来」なんてものは、
罪悪感なく嘘や願望を口にできるくらい、
はるかに遠い場所だったのだと思う。
将来の夢を語りづらくなった代わりに、
年をとって語りやすくなったのは、
自分の死のような気がする。
畳の上でとか、誰にも知られずにとか、
あるいはあの死に方だけは嫌だとか。
そこには子供にとっての夢と同じ構造がある。
死は遠い場所にあると誰もが思っている。
何をせずともそれが近くまで来ているはずなのに、
自分の死を語り、定める92歳の姿は、
終わりに向かう人とは思えない意思の力に満ちていた。

死が生の一部であるのなら、
生きている間それを失いたくないと思うのと同じように、
死の瞬間にまで人としての尊厳を求めるのは、
決して分からなくはない理屈で、
たとえその結果が尊厳死という名の自殺であっても、
92年を生き抜いてきて、
どうしようもない疲労を溜めこんだと言う人に対して、
他人がどうこう言えることはもうないのだと思う。
曖昧で脆弱ながら、
自分の中に確かに根付いている宗教観から言えば、
ほとんど反射的に自殺には反感をもつけれど、
一方で他人が選らんだその人自身の死を、
止めるだけの確固たる理屈も見つけられない以上、
自殺を制止する立場にはなれないとか思う自分より、
助産婦として生の現場で働き続けた彼女は、
おそらく真摯に、そして具体的に、
生と死を見つめて、考え尽くしている。
人としての地盤がもう全く敵わない。

けれど語り手は彼女の娘で、
理屈とか宗教観とかそんなもの関係なく、
ひたすら情をもって彼女を責められる、
数少ない立場の人間なのだと思う。
死なないでくれと言うことに、
愛しているや寂しい以上の理由はいらないでしょう。
特にそれが血を、つまりは命を分けた、
母と子の間柄であれば尚更そうだと思う。
詳しくは述べられていないけれど、
母の決断を知った当初は、
著者はそうやって説得を試みたようで、
でもそれが母を変えられないと思い知ってからは、
この母子のやりとりは驚くほど理性的に見えた。
実際は涙や怒声、ときにはひどい罵りもあったんだろうけれど、
彼女たちは母が決めたカウントダウンの中で、
生や死、幸福や記憶、それからたくさんの思い出について、
最大限の努力をして建設的に語り合っている。
互いを想う深さと、それさえ抑えつける自制心に感嘆した。

「それでは、10月17日にしましょう」なんて、
なんともあっさりとを告げたり、
電話をわざと遅らせて死の予行練習をしたり、
自ら死を選択したこの女性は、
死の間際の日々だけでなく、
多分生全体を通してこんな風に軽やかだっただろうと思う。
80歳を超えてアフリカで助産婦をしたり、
死んだらワニに自分の身体をやってくれと言ったり、
わずかなエピソードから察するに、
エネルギッシュでもあったんでしょう。
それだからこそ92年は、長かったのかもしれない。
何かをできるということは、
決してそのことを苦にしないということではない。
あるいはエネルギーに満ちていたからこそ、
衰えていくこと、できなくなっていくことが、
耐え難いものとして感じられたのかもしれない。
おそらく著者が何度も尋ねたであろう「なぜ」を、
最後まで私自身も読みながら繰り返した。

それ自体の是非はともかくとして、
尊厳死という言葉は、
やはり罪悪感や露骨さを隠すための、
単なる言い換えでしかない気がした。

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