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2011.07.06 (Wed)

プラネタリウムのふたご


プラネタリウムのふたご
(2006/10/14)
いしいしんじ

二人は星の下で拾われ、
星の見えない村で育ち、
星々の物語を愛した。

分かれた道の先のどん詰まり、
絶望にのしかかられたとしても、
彗星の名を分かち合った子供たちは、
夜を通して繋がっている。


【More・・・】

天にましますお方がどんななのか、
お会いしたことはないけれど、
少なくともそのお仲間には存外人間味がある。
愛し合い、憎み合い、
勇ましい武功を上げたかと思えば、
馬鹿げた理由で命を落としたりもする。
それはこの国を創った二人の神に連なる方たちに似ていて、
神代の人々の人間臭さに国境はないのかと思う。
彗星の名を分け合った二人の少年は、
名前そのもの、夜空にいる神々の仲間のようだった。
物語の中で名前をもっているのは彼らだけなのに、
名前を持たない他のどの登場人物よりも、
彼らは現実から浮き上がって遠い場所にいて、
それでいて現実の誰かに似ているようで、
懐かしい人に会ったような気持ちにもなった。
テンペルとタットル、どちらの人生も、
数奇といえばそれまでで、自分から遠いけれど、
彼らの抱える絶望と希望だけは知っている気がした。

同じ日に拾われ、同じ場所で育って、
小さい頃は双子としてセットで扱われてきた二人でも、
姿形以外に彼らに共通だったものなど、
最初からなかったのではないかと思う。
テンペルとタットルの生きる道が分かれた日は、
確かにテンペルの人生にとって決定的だったけれど、
それは誰もに訪れるただの岐路でしかなくて、
泣き男が教師に対して言ったように、
二人は当たり前に別の二人の人間、
普通の兄弟と違うところはどこにもない。
だから、村に二人がそろっていた頃も、
遠く離れて手紙だけを交わしている時も、
二人は決して双子であることを、
何かの理由、特に二人の絆の理由にはしなかったんでしょう。
同じ日に生まれたことや同じ外見をもつことは、
彼ら自身にとっては何の意味もなかっし、
もしも普通の兄弟と同じに全てが異なっていても、
テンペルは異国から手紙を書き、
タットルはテンペルの便りをもって山を登ったのだと思う。
それが二人にとって自然だったから。なんていう純化。

多くを見て、多くの人に出会ったという意味では、
タットルよりもテンペルの方が、
広い世界を知ったと言えるのだろうけれど、
村に育って、村で仕事を得て、
おそらく村の中で死んでいくタットルの人生が、
テンペルよりも平坦だったかと言えば、
決してそんなことはないと思う。
村から出る契機がそうであったように、
テンペルの生き方はどこか流されているようで、
望まれるようにあることが、
いつしか自分の望みになったような、
傍から見ていると少し寂しくなるようなものだったのに対して、
タットルは自分の居場所もすべきことも、
自分の頭で考え、動いて獲得していったように見えた。
熊の一件では間違ってしまったけれど、
実際そこに因果関係があるかどうかは別にして、
タットルは自分のまいた種をちゃんと刈り取った。
多分そういうことなんだと思う。

テンペルの死もその忘却もあまりにあっけなくて、
仕方のないこととはいえ誰かを恨みたくなった。
結局テンペルとタットルは、
最期の別れを言うどころか、
あの日の以来会うことさえなかったわけで、
双子がそれぞれの人生を語り合う場面を想像していただけに、
心を半分もっていかれたようなタットルの姿は、
どうにも見ていられなかった。
栓抜きが自分のしたことで取り返しのつかない傷を負ったように、
テンペルに撃ち込まれた種の痛みを、
タットルは一生想いながら生きていくのだと思う。
泣き男もテオもうみがめもみんながみんな、
テンペルの死によってどこかに痛い種をもった。
でも、兄貴が新しい生き方を見つけたり、
パイプが死に場所を得たように、
死のようなどうしようもない絶望からも、
そう遠くない将来何かが芽吹くのだとしたら、
テンペルの最後の舞台は成功と言えるのかもしれない。

きんと冷えた夜に、
山で星を見上げたくなった。

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