2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2011.07.25 (Mon)

陰陽ノ京 巻の五


陰陽ノ京 巻の五
(2007/3)
渡瀬草一郎

道を踏み外せば、畜生になる。
心が壊れれば、鬼になる。
死ねば、仏になる。
人は化生する。

願わくば、人のまま。
己を疑いながら、彼らは願う。


【More・・・】

「人」と「人間」の違いは何なのか、
随分昔、問われたことがある。
その時なんと答えたのか、もうはっきりとは覚えていないけれど、
問うたのは今も昔も尊敬する恩師で、
当時の自分は先生によく思われたいがために、
ホモサピエンスがどうとか、小賢しいアホなことを言った気がする。
先生は苦笑いして、ただ、
「人であるな、人間になれ」と言った。ように思う。
なんて、どこの訓話だ的思い出だけれど、
それをまさに思い出しながら読んだ。
人でないモノ、人をやめた者、それから人に過ぎた力をもった者、
彼らが躍動する物語の中で、
「人」の定義も「人間」の定義も揺れている。
命と言わず意思のようなもの、それそのものの中に、
人を、少なくとも人に近い魂を見ようとする保胤は優しい、
でもおそらくそれは多分にエゴを含んでもいる。
身体を捨て、意識だけの存在になった鶴楽斎に対して、
もはや人でないと断言する時継の清さと強さが眩しい。
彼女なら、かの問いになんと答えるだろう。

化け百足も人を呪う爛れた魂も、今回のお話には登場しない。
退治すべき化け物はどこにもいない。
だからなのか、序盤は今までになく平和で、
双六をしたり、吉平と貴年が仲良しだったり、
大人同士が月を肴に杯を傾けたり、
この先どんな嫌なことが起こるのか不安になるくらいだった。
結論から言えば、今回悲劇はない。
保胤は久しぶりに吸精術を使うことになったけれど、
多分、そういうことでいいんだと思う。
鶴楽斎が妖に化生した経緯は、
あれは悲劇ではなく、救済の話なんだろうし、
吉昌という子供の在り様は、
おそらく最善ではないのかもしれない、
でもだからと言って誰かを不幸にするものでもない。
少なくとも梨花も吉平も、
今回は登場していない晴明も、つまり家族は、
誰一人吉昌の存在を哀れんではいないと思う。
まあ、天一「貴人」が気に病むのも分かるけれど。
全く健気な「貴人」だことで。

人の身体を捨てた鶴楽斎にとって、
一心に本来の姿を求める猛丸の存在は、
ひどく眩しく映っていたのではないかと思う。
一方で、人の定義がどうだの人間とは何ぞだの、
うだうだと理屈をこねくり回さなければ、
己がどういう存在なのかさえ分からないヒトという生き物は、
猛丸からしたら奇異だったろうなとも思う。
空で梨花に時継に対して語っているように、
猛丸にとって天狗への化生は不幸でしかない。
力が強くなったとか寿命が延びたとか、
そんなことはどれほどの意味もないんでしょう。
定義したり他と比較するまでもなく、
生まれた形で生まれついた分の命の長さで、
為すべきことを為すことだけが、
おそらく猛丸にとっての己というもので、
それ以外の解はあり得ないんだろうと思う。
それを獣の本能と言ってしまうには、
あまりにかの天狗の言葉には芯があった。

吸精術という異形の力をもって生まれた保胤が、
時継のことで一歩を踏み出せないのは、
鷹晃が人の中で暮らすのを恐れるのと同じで、
仕方のないことだとは思うけれど、
己の中に何がいるのか知らないとはいえ、
梨花の存在は彼らにとって、
希望になるのではないかと思う。
自分に対する疑いとは、
一生付き合っていかねばならないとしても、
梨花のように、家族を持ち命を繋ぐことはできる。
半ば一読者の希望としてですが、
やがて吉平が貴年を娶るようなことになれば、
梨花には子孫に囲まれて往生する未来もあるでしょう。
人をやめた鶴楽斎に太鼓判を押されても、
実際のところ頷けない気はするけれど、
異形でも人として生きて死ねることの証が、
幸いなことにすぐそばにあるのだから、
まあつまり何を言いたいかというと、
保胤いい加減覚悟を決めろこのヘタレが、ということです。

帯によると「4年ぶり」の「復活」らしい。
あれ、それから4年経ってるな…。
オリンピックだと思って待ちましょう。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


23:30  |  渡瀬草一郎  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/346-40a49b8a

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |