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2011.07.30 (Sat)

ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹


ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹
(2008/12/12)
西尾維新

惨劇はすでに終わっている。
もう誰も痛くない。
血だって流れやしない。

圧倒的な静寂の中、
正気でいられる頭は壊れている。


【More・・・】

血で血を洗うような、という形容には、
まだしも救いがあるのかもしれない、とか
大分ダメなことを考えてしまった。
血が血を洗い流しているということは、
少なくとも血を流させている誰かと、
血を流す誰かが生き残っているわけで、
まあ洗うのも洗われるのも血だというところに、
狂気と惨たらしさがあるんだろうけれど、
それでも、洗われないまま、
ただ血だまりだけがいくつも並んでいるよりは、
すでに黒いその血だまりの中に沈んでいるのが、
語り手以外の全員という状況よりは、
まだ血で血を洗ってくれた方が生気がある。
しかもその状況ならあるべき錯乱を、
語り手自ら踏みにじってついでに血も踏まれては、
もう吐き気を催すしかなかった。
血の文字を打ち込んでるだけで気持ち悪い。

副題からして「殺戮」とあるのだから、
多分相当なことになるんだろうな、と覚悟して、
前半どれだけほのぼのやニヤリがあっても、
油断しないようにしていたはずなのに、
結局「地獄」の光景を前に固まってしまった。悔しい。
いわゆるフラグを完全に見落としていただけに、
中庭に晒されたものの衝撃は半端じゃなく、
いーちゃんが「助けて」と言いたくなるのも分かる。
それにしても研究所が携帯の通じる圏内にあって良かった。
そうでなければ、多分いーちゃんは壊れて、
壊れたまま冷静にことを処理しようとして、
結果「地獄」をより凄惨な場にしてしまったと思う。
社会の規律や規範を無視していいのなら、
殊この男に限ってはそんな風にでも傷ついた方が、
一周して正気に辿り着くかもしれないけれど。
でもそのために姫ちゃんが更に体を損なうのなら、
こいつは青に救ってもらっていればいい。
問答無用の姫ちゃん贔屓である。

舞台の上にいた人間を一挙に血だまりに沈めて、
語り手も語ることをやめようとして、
一体どうする気なのかと思っていたら、
今回はみいこ姉さんが男前に喝を入れてくれました。
具体的に何がどうなのか、全く分かっていないはずなのに、
みいこさんのこの確信に満ちた振る舞いはなんだろう。
天才とか異能とか、あるいは兄妹のような異形とか、
そんな馬鹿げたものとは無縁の場所、
玖渚の言うところの「普通の世界」の住人でありながら、
その「普通」を今度こそ諦めようとした人間を、
みいこさんは引きとめる術を知っている。
玖渚は許し、多分哀川さんなら怒って、
それでもおそらく変えることのできない部分に対して、
みいこさんが働きかけられるのは、
「普通」だから、とかでは絶対にないと思う。
思考の放棄のようで嫌だけれど、
もうみいこさんだから、と言ってしまいたい。
それほどに、このフリーターサムライに惚れてしまった。

幕間を挟んで次に幕が上がったと思ったら、
もう惨劇は終わった後だったので、
具体的にどういう言葉や技が交わされて、
姫ちゃんと理澄が血にまみれたのかは分からないけれど、
その時の出夢の頭の中を思うと、
いーちゃんがそこに立ったときとはまた別の痛さがある。
妹を想って、危険を冒してまで約束をしたのに、
出夢はどちらも守りきれなかった。
全部が終わって静寂が訪れて、
妹の胸をえぐりに行くまでの間、出夢は何を考えたんだろう。
人殺しである自分よりも、
更に深刻に壊れたまま生きていた妹のことか。
あるいは自分に似た形で道を外れた姫ちゃんを恨んだか。
殺戮し、隠れ、また哀川さんを求める点だけを見ると、
出夢の軌道は殺人狂のそれのように見えるけれど、
この子は実際それほど壊れていなかったんだろうと思う。
少なくとも悲鳴を厭える程度にはまともだった。
なんて痛々しい哄笑だろう。

なんだか知らないうちに死んだらしい零崎人識。
出版順に従って、人間関係をさらうことにします。

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