2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2011.08.16 (Tue)

傷物語


傷物語
(2008/5/8)
西尾維新

理由や目的など、
そんなもの最初からないことくらい、
本当は誰だって知っている。
でも、あると信じなければ、
やっていられない、耐えられない。

美しい鬼が生きてきた長い時間、
彼女の胸にあったのは一体何なのだろう。


【More・・・】

誠意の示し方は色々ある。
とある業界では指をつめると聞くけれど、
真の愛なんていうのしを付けて、
落とした指を相手に送る女たちもいたらしい。
あるいはかぼちゃを差し出した父親もいる。
いずれにせよ、何を差し出すにしても、
そうして何かを差し出したりでもしなければ、
誠意というものは伝わらないものなのだと思う。
阿良々木くんが自分の行動の責任として、
「化け物」相手に差し出したものは、
多分嘘偽りなく誠意なのだと思うし、
みんなが不幸になる結末、と言っても、
少なくとも差し迫った死だけは避けられたのだから、
あれ以上の選択はなかったのかもしれないけれど、
それでも阿良々木くんの選択を支持することはできない。
恩人たる化け物は死にたがった。友人は想ってくれた。
それを全部無視して、この男は己の誠意をとった。
指もかぼちゃも、人たることも、
差し出された側の一体何の役に立つというのか。

阿良々木くんがまだ戦場ヶ原さんとお近づきになる前、
忍ちゃんがハートアンダーブレードだった頃のお話。
中盤までは本当にどこの少年漫画な感じで、
起きていることは派手なわりに、
なんだか安心して、バトる阿良々木くんを見ていた。
突然夜の住人にされてしまった主人公、
襲い来るイカれたヴァンパイアハンターたち、
人間に戻るため、ヒロイン(眼鏡委員長)の協力を得て戦う、的な。
阿良々木くん的にはギロチンカッター戦での変形は、
どこの悪役だよ、な感じだったようだけれど、
主人公が日の下を歩けない化け物な時点で、
そんなことは今さらだと思うんだけれども、
まあ、人間の形をしていることは確かに重要なのかもしれない。
本当はむちゃむちゃと人を食う化け物であっても、
ラギくんが彼女もそうであることを失念してしまったのは、
彼女が人の形をして人の言葉を話し、
人に戻りたいという望みを「分かって」くれる者だったからで、
たとえば最初から化け物らしいなりをしていたなら、
物語はこうはならなかっただろうなと思う。
忍野の言いようも分かるけれど、
哀しいかな、人の形をしたものを人だと思うのが人の性でしょう。

化物語で垣間見えた羽川の事情や思いを考えると、
阿良々木くんと向かい合う羽川が痛々しくてならない。
そして何ひとつ気づかず察しず、
優しさと自分に対する低い評価と思いやりで、
羽川を傷つけていく阿良々木くんに苛々する。
羽川の優しさと気遣いは、
忍野が気持ち悪いと評するのも分かるほどではあるけれど、
ほんの数瞬で自分を諦めて首を差し出して、
しかも後々それを罪として背負う主人公の方が気持ち悪い。
あの時たった5人とはいえ彼らの痛みを思わなかったことを、
この男も反省してはいるようだけれど、
それにしても簡単に自分を捨てすぎな気がした。
相手が人より上位の存在だとか、
生きていたい死にたくないと泣き叫んだこととか、
そんなものはいくらの意味ももたないし、
そんなことで投げ出せてしまう程度にしか、
自分の存在が占める位置を認識できていないのなら、
そういえばまだ高校生なことを差っ引いても、
それは紛れもなく人としての欠陥だと思う。

冒頭で語られているように、
一連の事件の始まりがどこだったのかは判然としない。
どこに線を引こうとしても、
偶然だとか必然だとか胡散臭い言葉がついてくる感がある。
ただそれは阿良々木くんを中心して考えたときの話で、
傷を負ったもう一人、ハートアンダーブレードからしたら、
あの結末に至る物語の始点は、
忍野に心臓を盗まれたときでも、
ハンター三人に追い詰められたときでもなく、
おそらく阿良々木くんと出会ったあの瞬間なんだろうと思う。
人を食おうと食うまいと、
500年なんていう時間は人でなくなるには十分で、
しかも多くの吸血鬼のように死を選ぼうとはしなかった分だけ、
彼女は人からも吸血鬼からも遠い場所にいるように見えた。
その彼女が生にしがみついて死に場所を見つけたあの時から、
彼女にとっては全ては死ぬための物語だったんでしょう。
結末のために用意したものは確かに悲しいしやりきれないし、
委員長が思わずしゃしゃり出てしまうのも分かるけれど、
でも、生きたいと泣いた彼女よりも、
死なせてくれと叫ぶ彼女の方が見ていられなかった。

健全な男子高校生の願望がどんなものか、
そっとしておくのが情けというものだろうけれど、
あんな委員長、もう反則だよなあ阿良々木くん。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


16:42  |  西尾維新  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/352-eef772ab

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |