2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2011.08.31 (Wed)

NO.6 #8


NO.6 #8
(2009/7/25)
あさのあつこ

それを望んだ者も望まない者も、
考えたことさえなかった者も、
確かな崩壊の音に一様に歩みを止める。
もはや無視することなどできない。

終わりの後に続く世界の姿は、
誰の心にも確かでないまま。


【More・・・】

生あるいは死を定義しようとする試みは、
おそらく有志以前からあったんだろうし、
ある文化圏、ある教義、ある個人、
なんて具合に範囲を区切って言うならば、
その試みがどこかに到達することもあるんでしょう。
でも、生きとし生けるもの全てが頷けるような、
そんな隙のない答えはいまだない。
それは、死がどこまでも排他的だからなのだと思う。
誰かの死を自分のものとして共有することはできないし、
己の死を一般の誰かに伝える術さえないのだから。
そういう風に考えると、一般化できない霊的な方法ではなく、
0と1からなる思考で自分の死を認識する「沙布」は、
マザーとの同化云々は別にして希有な例なのだと思う。
ただ、体を失って思考する「沙布」を沙布と認めると、
「沙布」が生身の沙布の死を認めている以上、
死を正しく実行するために「沙布」、つまり沙布を消すことになる。
自分はもう死んでいると思う「沙布」と、
「沙布」は沙布だと叫ぶ紫苑のはどちらも正しいけれど、
こんな形になっても死が共有されないことが悲しい。

#6辺りで不穏な問答が出てきた時点から、
二人の目的地にろくな現実がないことくらい分かっていた。
おそらく沙布は救いようがない状態か、
最悪紫苑の前に障壁として立ちはだかることになる、
とそんな風に思って読んでいたので、
最上階で紫苑とネズミが対面した「沙布」は、
その暗い予想の中では比較的マシな部類だったけれど、
だとしてもそこにいるのに触れられない「沙布」を前に混乱し、
状況も沙布の気持ちも無視して、
感情を爆発させる紫苑の姿を見ていると、
紫苑にとっての沙布がどうのというより、
一人の健康な少女をあんな状態にすることそれ自体の残酷さ、
取り返しのつかなさが胸に迫った。
一方で、「沙布」の言葉を沙布のものとながら、
沙布の死を認めて「沙布」を消去することをネズミが選ぶのは、
矛盾ではあっても、間違いではないのだと思う。
優れた頭脳をもつ紫苑がそれを分からないわけもないけれど、
それで納得できるなら、そもそも命懸けになっていない。
あのホログラムが「紫苑」だったなら、
ネズミは紫苑のようになっただろうことを思えば、
「沙布」の哀れさばかりが募ってたまらなくなった。

紫苑とネズミが上の方でバタバタしている間に、
下ではイヌカシと力河さんが存外ピンチで、
上の二人が必死にやっているのは重々承知ながら、
早く主役二人に降りてきて欲しくてやきもきした。
こんな誰のためだか分からない形で、
当の二人にさえちゃんと知られずにいなくなっては、
イヌカシの述懐があまりにやるせない。
純然たる西ブロックの住人であるイヌカシが抱く怒りと、
かつてNO.6の人間だった紫苑や力河、
そして内部を知るネズミがもつ嫌悪感や憎悪は、
根本的に違うものなのだろうと思う。
イヌカシにはおそらく巨大な都市の全体は見えていない。
あくまで自分の見てきた世界と、
与えられた苦痛や理不尽の大元として「NO.6」というものがある。
NO.6が西ブロックの人間を人間とみなさないように、
イヌカシにとってのNO.6もそうなんでしょう。
だから目の前の生きた人間に迷いなく発砲する。
理屈なしに怒りを生き残るための武器に変換できる。
都市の崩壊が成った時、何が現れるのか。
イヌカシのことが心配でならない。

沙布のために己を見失っても、
ネズミの命の危機となればあっという間に現実に戻る辺り、
紫苑にとってのネズミの大きさがよく分かる。
少し前までお前を利用しただの何だのと言っていたくせに、
自分の行動原理全部を否定するような形で、
紫苑を守ろうと傷つくネズミと合わせて、
もう二人は相手なしにはいられないんじゃないか、とか
主に他意しかない感想をもってしまった。
命懸けの紫苑の目的は達せられなかったけれど、
NO.6を憎悪するネズミの目的は達せられて、
あと1巻分で物語がどこへ終着するにしろ、
二人が生き残ることになるのなら、
多分終幕のその先でも彼らは一緒にいる気がする。
嵐の夜に出会って別れ、それぞれに大きくなって、
互いを大事に思いながら、同時に恐れを抱き合って、
距離を詰めたり後ずさったりを繰り返して、
そうしてここまできた紫苑とネズミ。
イヌカシの予感の通りになったとしても、
ずっとそんな風にお互いの隣りにあって欲しいと思う。

紫苑が心配なのはもっともだけれど、
混乱の中にいる火藍自身も危険な雰囲気。
「再会」の約束を果たすために、
どなた様にも生き延びてもらわなければ。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


22:30  |  あさのあつこ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/356-c6a19e42

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |