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2011.09.28 (Wed)

ヒグマ学入門 自然史・文化・現代社会


ヒグマ学入門―自然史・文化・現代社会
(2006/10)
天野 哲也、間野 勉 他

隣人のことを知らないなんて、
そんなに珍しいことではない。
たまに出会って挨拶したり、
あるいはゴミの問題なんかで衝突したり。
その程度で当たり前。

ただ、森に住まう隣人たるヒグマに、
同じような付き合いをしたら、
お互いに命の保証はないことは、
知っておかねばならないのかもしれない。

【More・・・】

昆虫や植物、菌類は、膨大な数が存在している。
個体数はもちろん、
種数でさえ人には把握しきれていない。
かつてある理科の先生なんかは、
この星は被子植物のものだと宣っていたけれど、
確かにぐるりと周囲を見回してみれば、
包囲されているなあという感がある。
彼らに比べるとほ乳類なんてものは、
種数も個体数も遠く及ばないし、
その中でも大型のものに限って考えると、
もう図体の大きさだけで存在を保ってる気さえする。
この国に住む数少ない大型ほ乳類仲間であり、
おそらく唯一の「猛獣」である、クマ。
人など一薙ぎで仕留められる力を持ちながら、
人のようにわらわら殖えることもなく、
何かを駆逐したりもせず在り続ける獣は、
知れば知るほど、己を弁えているように思えた。
「人になれなかった」とは、なんて人間臭い言だろう。

幸か不幸かと言えば確実に幸運なことに、
まだ森でヒグマに出会ったことはないけれど、
クマ牧場や剥製で見ただけでも、
あんな大きさであんな爪と牙をもつ獣、
とても人が敵うものではないということは分かる。
実際年間いくらかの人があの爪のために死んでいるのだから、
その意味で、ヒグマは紛うことなく猛獣、
人にとって脅威なんだと思う。
母熊の攻撃性や餌への強い執着心、
そして学習による性質の変化が危険性に拍車をかけ、
結果、かつて大規模な駆除が行われたことは、
現実にヒグマと隣り合って生活することを想像すれば、
仕方のないことだったんでしょう。
でも、ヒグマは今も北海道を闊歩している。
狼やカワウソのように狩り尽くされなかったのには、
狩りの危険性や商品としての価値の違いなどなど、
色々な背景があったんだろうけれど、
第Ⅱ部を読むと、熊を恐れながら畏れ、
同時に親しまずにはいられない心が影響しているように思える。

第Ⅰ部はヒグマの生態、特に食性と繁殖を中心に、
という感じで始まったので、
てっきり全体が科学的な分析とか研究の話かと思いきや、
第Ⅱ部で神話や信仰の話が始まって、
いつの間にかネアンデルタール人や方相氏、
はてはアーサー王の話にまで繋がって、
一つ一つは興味深く読んだものの、
結局どこへ行くんだと不安に思っていたら、
まあ結局どこかへたどり着く種類の本じゃなかった。
大学の一講義の受講者向けの入門書なので、
窓口をたくさん示すという意味で当然といえば当然か。
それにしても特に第二部と第三部に顕著だけれど、
著者の大半は、ヒグマを愛し、ヒグマのことを考え、
もう色々捧げちゃっている人で、
読みながら、なんだか告白大会を聞いてる気分になった。
こんなに愛してるぜ、こんなこと考えたぜ、的な。
学術的にどうのこうのということは、
入門者たる私に言えることではないのは承知していますが、
それはこじつけじゃないか?という気も時々した。
大変失礼ながら、愛は盲目、なのかもしれない。

山の餌不足がクマの人の領域への侵出の原因、
という文脈のニュースほもう秋の風物詩で、
その結果の冬眠入り遅れ、穴持たずの出現は、
とっくの昔に結論の出た話だと思っていただけに、
必ずしもそうではないという話は驚きだった。
人と共存して長い獣なのにそれ以外にも、
メスの胎内で起きている着床のシステムさえ、
まだはっきりとしない部分があるらしい。
スライドガラスに載せて観察するワケにはいかないし、
二十年という世代交代までの長さもあるしで、
そういう点での研究の難しさはあるんだろうけれど、
ヒグマにさえまだ空白部分があるということに、
研究という分野の裾の広さ、可能性を見た気がする。
気障ったらしく言うのなら、
人が知らない領域の存在がまだまだあることが嬉しかった。
そこに対して貢献できるのなら、
人生を捧げてしまう気持ちも分からなくはない。

ESAに比べると、
日本の種の保存法や鳥獣保護法が恥ずかしい。
アメリカさんの本気を見た。

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