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2011.10.07 (Fri)

偽物語(上)


偽物語 上
(2008/9/2)
西尾維新

宝石や美術品ならば、
専門の目をもった者たちが、
その正当性を鑑定してくれるけれど、
残念ながら人間は対象外。

正義の味方は自称するしかない。


【More・・・】

ドッペルゲンガーに出会うと死ぬらしい。
外見、性格それから経験、全てを共有して
本体と全く同一であるのがドッペルゲンガーなら、
その前提を崩さないためにはが消えるしかない。
同じ時間に異なる座標に存在しているというだけで、
同一の存在とはいえないのだから。
ただ、なぜ消えるのが本体なのかと思っていたけれど、
本物であることと偽物を貫くことについての話を読みながら、
消えるのがどちらであろうと同じことなのかも、と思った。
本物が消えようとドッペルゲンガーが消えようと、
片方が消えたその瞬間から、
残った方が「本物」の地位を獲得するなら、
おそらく生き残りに偽物の自覚はない。
本物も偽物もなく、ただ唯一無二の己を確信するだけ。
かつて偽物であった記憶を失って、
誰もが本物だと確信しているだけなのだとしたら、
今「偽物」である阿良々木姉妹は、確かに正しい。
死に損ないの人間もどきの兄にとやかく言われる筋合いはない。

化物と傷物において、
阿良々木くんや羽川さんなんかが向き合っていたのは、
「怪異」、つまりはあるはずのないもので、
怪異の王たるハートアンダーブレードと、
阿良々木くんが笑い合いながらお互いが見えていなかったように、
彼らには彼らの理があって、
人のそれは往々にして通用しない。
だからこそ忍野のような存在なくしては、
ガハラさんのように侵され続けるしかない。
でも、火憐と月火の二人が許せずにいるのは、
たとえそこに火をまき散らす蜂が関わっていても、
あくまで地に足ついた不正なのだと思う。
子供から金を巻き上げ、人と人関係に毒をまくことが、
正しいことであるはずがないのは明白で、
化物に憑かれた女の子たちとは違って、
彼女たちには自分の中にやましい部分はない。
もしも忍野がまだ町に留まっていたなら、
羽川さんの指摘ももっともだけれど、助けてくれたと思う。
未熟でも浅慮でも、彼女たちは現実を見ているから。

今回阿良々木くんがやったことは、
妹の苦痛を軽くするというそれだけのことだけれど、
一部分化物のままであることや、
エキセントリックな女の子たちの人気者であることとは、
全く異なる次元で、お兄ちゃんなんだなあと思った。
そして同時に大きい妹などと兄には一緒くたにされながらも、
火憐はファイヤーシスターズの実践担当であるだけでなく、
ちゃんとお姉ちゃんでもあることが端々に見えて、
このまっすぐに大きな中学生が可愛くて仕方なかった。
兄から見れば考えの足りないガキなんだろうし、
実際、妹が参謀役をやっているくらいだから、
頭より体の実戦担当は伊達じゃないんだと思う。
でも、火憐には確かに火憐だけの正義があって、
妹である月火とタッグを組んでいても、
おそらく姉妹の正義は完全には一致していない。
それでも、「二人の」正義を体現する拳を鍛え、
動ける限り動こうとする辺りが、なんとも好ましかった。
まあ、正義の味方ごっっこでなく自称する中学生というだけで、
思いっきり頭なでてやりたくなるんですが。

忍野なき後、誰が怪異を説明してくれるのかと思っていたら、
まさかの忍で、虚を突かれました。
阿良々木くんではないけれど、
てっきり言葉を失ってしまったものと思っていたのに、
要は単にすねていただけだったのか。
しかもしっかり忍野に教育されてるし。
心も体も中途半端な感じの阿良々木くんよりも、
全てにはっきりくっきりした忍の方がよほど好きなので、
彼女がまた話してくれるだけで嬉しい。
ガハラさんがつけたけじめがもう終わった因縁だったのとは違って、
忍と阿良々木くんの間に生まれた新しい距離は、
現在進行形である分危ないバランスの上にある。
何しろ阿良々木くんが決意、あるいは諦めるだけで、
忍の望みはいつでも叶えられる。
二人は言葉を交わし、血を分け合うその度ごとに、
これからも至近距離で綱を引き合うのだと思う。
許さないまま、ときに「協力」したりしながら。
この状態まで見越していたのなら、やはり忍野ただ者ではない。

暦と火憐と月火。
二人目に親御さんの遊び心が透けている。

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