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2011.10.13 (Thu)

解体諸因


解体諸因
(1997/12/12)
西澤保彦

それが体の生理作用でない限り、
動機のない行為など存在しない。
どれほど突飛で意味不明に見えても、
そこに至るには理由とおそらく必要がある。

だからといって、
人を殺めてバラさねばならない理屈に、
頷けるものがあっていいはずもない。


【More・・・】

いのちの食べかた」というドキュメンタリー映画がある。
家畜や野菜が生産され、食卓にのぼるまでに、
どういう過程を経ているのかを、
ほとんど何の解説もなしに撮り収めた映画で、
多分観る人によってはトラウマものだと思う。
私の場合は、ああここからが「食べ物」かと納得した。
言うまでもなく、農場にいるの食って糞して殖える生き物で、
「彼ら」が「それ」に、「可愛い」が「美味しそう」に変わる点が、
映像を見ているとはっきりと感じられた。
牛なら半身に割られた瞬間、豚なら鼻先と蹄が落とされた瞬間。
そして一度「肉」だと認識してしまえば、
もはや衝撃ただの作業風景で、退屈なくらいだった。
この文脈で繋げるのは甚だ凶悪だと思うけれど、
バラバラ殺人が陰惨で猟奇的でおぞましい狂気の産物に見えるのは、
人間を食べ物として見たことがなくて、
かつバラすことに常識的な理屈、
食肉のための屠殺のようなものがないからなんだろうなと、
「合理的」な必要によって解体された死屍累々を眺めながら思った。
不完全ながら後者の条件を満たしてしまったからか、
どこからも血の臭いがしないことがおぞましかった。

事件が起こって、死体が見つかって、
やがて犯人が逮捕される段になっても、
謎解き役の人間のほとんどが事件の外側にいる。
死体と対面することもなければ、
犯人をに向かって決め台詞を吐くこともない。
そういう距離感で単純に理を追い求めていることも、
人間を解体する気味悪さを隠しているんだろうと思う。
一番たくさんの被害者が出た第八因でさえ、
三人目くらいで、また首なし死体と他人の首か、と思い、
首入りのビニール袋をスイカが入ったようなと描写されても、
滑稽にしか感じなくなっていたのだから、
生理的な嫌悪感なんて全くいい加減なもので。
様々な方法と理由でバラバラにされた死体もさることながら、
人を殺してバラそうと決意する人々の理屈が、
どれも分かるようで全く理解できず、可笑しかった。
確かに理はある。矛盾はないように見える。
でも同じ立場に立たされたとしても、
犯人と同じ行動をとる人間などいない気がする。
殺しバラし運搬するストレスを考えれば、利があまりに薄い。

犯行に至る犯人の理屈はおいておくとして、
それを与えられた情報から導き出す各「探偵」の手腕は見事だった。
彼らは何も犯人の心情に同調したから、
自分ならこうするという理屈で解答にたどり着いたのではなく、
むしろ関係者の感情的な部分を排除した上で、
悪を断罪することとか倫理に従うことなど無関係に、
ただ状況に見合う説明をするためだけに、
死体を含めた全部を吟味しているように見えた。
言ってしまえば小説世界の彼らにとっても、
事件は自分のものではないのだと思う。
とはいえ、往々にして探偵は事件の関係者に近い位置にいるので、
彼らの他人行儀っぷりや過ぎた冷静さは、
おそらく非難されてしかるべきレベルなんだろうけれど、
死臭のしない死体を相手にしているのだから、
動揺などされても、白けるだけだったかもしれない。
一連の解体にまつわる悲嘆や悔恨や憎悪は、
遺族と犯人にお任せしておこう。

解体された死体をどんと差し出されて、
さて犯人は誰?どうしてこんなことを?という話ばかりの中
第五因「解体守護」に限っては、
解体も流血も確かに要素として含まれていながら、
思わずほっこりしてしまう温かい話だった。
だったのだけれど、
かなり個人的で是非もなく秘したい事情を、
赤の他人に推理されて了解されてしまったサッキーには、
ひたすら同情を禁じ得ない。
まあタカチやタックが誰かに話すことはないだろうけれど、
自分の体のことで一事件が起きてしまっただけでも、
おこわの美味しさでは帳消しにできない思いだろうなあ。
弟くんが事情を理解できるくらい大きくなって、
サッキーもそのことを自然に話せるようになったなら、
家族みんなでその日のことを笑えたらいい。
それでやっといい話として完結するような気がする。

殺人にいたるどの理屈も頷けないけれど、
第三因「解体昇降」のアホらしさは群を抜いている。
それが男たるなんて言っては、
刑務所の容量は永遠に足りたもんじゃない。

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