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2011.10.15 (Sat)

太陽の塔


太陽の塔
(2006/5)
森見登美彦

恋人たちは優遇されている。
クリスマスや2月のチョコ祭りでの、
まるで共に過ごす人間がいないことが、
世に憚ってしかるべき事であるかのような、
ピンク色の攻撃は目に余る。

立ち上がれ一人者。戦え最後の一人まで。
ただし、利も理も己にないことを自覚せよ。


【More・・・】

鑑賞者に特別何も求めず、
無差別に影響をまき散らす美術作品の存在は、
一つのテロなんじゃないかと思う。
影響を受ける受けないは個人の資質に依っているから、
本当に無差別なわけではないけれど、
それでもそれの前に立った瞬間が決定的になる人間もいて、
創作することの可能性と怖さはそこにあるのかもしれない。
なんて、愚にもつかない美術論はどうでもいい。
物語の中にどーんと立っているのは、
あの昭和の象徴のような塔ではなく、
小柄でちょっと変わったところのある女の子。
というより、「彼女」とか「青春」とかいう定型文か。
その足元でうろちょろする男どもは、
平伏低頭するようなみっともないことはしない。断固戦う。
まあ、キラめくそれを無視できない時点で、
テロリズムに巻き込まれているんだろうけれども。
そのことも自覚した上で戦いを挑んでいるのだから、
外からうだうだ言うのは野暮かもしれない。
とりえあず、やるだけやれと思った。応援はしないが。

「私」が日々やっていることから水尾さんを抜くと、
残るのは寿司屋のバイトくらいで、
学生の本分は甘酸っぱい恋愛や青春ではなく、
学業だと断言するのはいいけれど、
それで自分が休学中の五回生なのだから世話ない。
しかもその水尾さん部分にしても、
彼女のためになるようなことは全くなく、
ただお付き合いしていた頃のこととか、
一年前の別れについてとかを理路整然と考えるだけ。
その理がほとんどキラめくものへの憎悪で補正されているから、
結局思考も日常もどこへもたどり着かない。
でも、おそらくそんな風に日々を浪費する「私」も、
その周りにいる三人の男も、
自分たちの理や怒りが八つ当たりでしかないことを知っている。
それに無自覚なままだったなら、
全くどうしようもない奴らの話でしかなかったけれど、
「ええじゃないか」の中にいる彼らはひどく冷めていて、
飾磨が「勉強してから」と言ったとき、彼らを好きになった。

終わってしまった恋をずるずる引きずる「私」と、
始まりつつある恋で錯乱している遠藤が、
同じ位置で威嚇し合うのが可笑しくて仕方なかった。
水尾さんへの距離という点では、
彼女の研究者である「私」に一日の長があるようにも見えるし、
まだ可能性があるという意味で遠藤の勝ちにも見えるけれど、
その実全く二人の間に差はないんだろうなと思う。
二人がそれぞれ水尾さんに対してどういう思いを抱いていようと、
水尾さんにとってはどちらも視界の外。
存在を認識してもそれ以上のものはない。なかった。
結局軍配は遠藤に上がったようだけれど、
京大生狩りの夜や映画館での二人の距離感は、
まるで戦友のそれのようで、アホだなあと思った。
実際にやったことと言えば、
ガムテープで扉閉鎖とか、ゴキキューブの贈り合いとか、
甚だ下らないことばかりで、
大学生の無駄な行動力と有り余った時間の結果がもの悲しい。
天下の京大生に安心させてもらった気がする。
私はまだ大丈夫だと。

「私」の行動と思考の中心にいる水尾さんだけれど、
彼女が直接物語の中に姿を現すことはないので、
この子がどういう女の子なのかはよく分からない。
ただ、「私」の思い出や夢、少ないエピソードを統合すると、
黄色い歓声や平坦なカワイーや愛され○○的なものとは、
多分無縁の場所に立っている子なんだろうなと思う。
残念ながら太陽の塔の下に立ったことはないので、
その威力、破壊力は想像するしかないけれど、
あの異様を前にして「宇宙遺産」を宣言する女子大生は、
そう多くはないような気がする。
ソーラー招き猫をクリスマスに贈ってしまう「私」も、
かなり妙な部類に入るんだろうけれど、
そういう「私」と一年以上付き合い、
一応クリスマスプレゼントであるものを指して、
「よけいなもの」と言ってしまう水尾さんも大概でしょう。
でも、断片的な情報から見えてくる「水尾さん」は、
世を恨む男たちの中にある妄想や理想ではなく、
確かに血の通った一人の女の子なんだと思えた。
だからこそ、「私」は一年もとち狂っていたんでしょう。

「私」と男三人と湯沢と水尾さんと、
それから邪眼や海老沢先輩が所属していた、
某体育会系クラブって一体・・・。
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