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2011.10.20 (Thu)

天と地の守り人 第Ⅰ~Ⅲ部 ロタ王国編/カンバル王国編/新ヨゴ皇国編


天と地の守り人第1部 ロタ王国編
(2011/5/28)

激流は何もかもを奪っていく。
人の身でできることはたかが知れているけれど、
手を伸ばすことはやめれらない。
たとえそれで我が身を飲まれても、
失えないものがそこにあるのだから。

そう思う強さに、
兵士も用心棒も呪術師も、そして王もない。
みな同じ泥の地平で足掻いている。


【More・・・】

国がたとえただの人の群れだとしても、
その前に、あるいは中にある個人はあまりに小さい。
支配者の有無に関わらず、誰の意思とも知れぬものによって、
群れは蠢きながら進んでいく。
けれど群れ同士がぶつかるとき、
その狭間でつぶれるのはいつも個人なのだと思う。
奔走するバルサも、戦場のタンダも、
そして希望を繋げようともがくチャグムや、
物語の表舞台に出入りするたくさんの人間全部が、
国と国がぶつかる奔流の中では、
同じ大きさの一人の人間に見えた。
それは我が子を守ることであったり、
戦を勝利に導くことであったり様々だけれど、
つぶされてしまわないよう足を踏ん張りながら、
誰もが流れの中で自分の責任を果たそうとしていた。
「穢れ」に満ちた異界の地を行く人々の姿は、
泥と血と異臭に汚れて、清々しかった。

いよいよ最終章。
間近に迫った彼らとの別れを頭の隅に追いやって、
バルサとチャグムの旅を追いかけた。
第一部ではチャグムの痕跡を耳にするたびに、
バルサと一緒に不安になりながら誇らしかった。
故国を救うための道程にあっても、
チャグムの目は目前の人間を素通りしたりしない。
自分のせいで誰かが傷つくことを恐れながらも、
願うだけでは何も成せないことを肝に銘じて、
目的のための「方法」を身につけたチャグムは、
少年を脱して、本当に大きくなったんだなと思った。
それでももう自分より小さいバルサを全身で抱きしめる姿に、
一人の道行きがどれほど苦しいものだったのかが透けて、
もういいよくやったと言ってやりたくなった。
バルサのその誘いに否と言うチャグムは、
皇子であることを諦めて受けいれたというより、
多分、目の前の人を救いたいその延長線上に、
自分にできるかもしれないことの重さを自覚したのだと思う。
死体を踏みしめ、血煙の中に駆け出す胸の中にあるものは、
狩穴で過ごした頃よりずっと硬く確かになっている。

アスラとチキサを背負うことになってから、
しばらくバルサ以外の物語に焦点が当たっていたので、
一体どうしているんだろうと思ってたけれど、
二人についての責任を果たしてからは、
どうやら相変わらずの用心棒家業で諸国を回っていたらしい。
シリーズの最初で三十になったので、今は三十代ももう後半。
今まで何でもなかったことで足を痛めたり、
小競り合いのような戦いで傷を負ったり、
チャグムが大きくなった時間の分だけ、
バルサの上にも年月が流れたんだなあと思う。
かつて宮に戻るチャグムと別れるときは、
二人とも後ろ髪引かれるようにしていたけれど、
戦うために故国に帰るチャグムとタンダを探しに行くバルサは、
それが本当の本当に最後だと知りながら、
もう大仰な別れの言葉や抱擁を必要としていない。
それは皇子からやがては帝になるチャグムも、
幾千の人間の間で生きていくバルサも、
お互いが同じ地平に立っていることを信じられるからなのだと思う。
それでも野暮ったくたまに会えないかなとか思ってしまうけれど。

チャグムと父親である帝が向き合い別れたとき、
この親子はやっとわかり合えたんだなあと思った。
息子を殺す決定を二度も下した父が、
何を思い、どういう道を生きていたのかを、
チャグムがはっきりと認めただけではなく、
距離は遠くても、帝も息子を認めたのだと思う。
どちらが正しいかはもはや問題ではなく、
決定的に自分とは違う経験と土壌をもつ息子とは、
決して同じものを見ることはできないということが、
帝には分かってしまった。
分かってしまえば、とれる道は一つで、
それは悲しいことだけれど、
互いの存在にちゃんと焦点を合わせられただけ、
経てきたものを思えば、幸運な部類だったのかもしれない。
帝が濁流に呑まれたとき、確かに新ヨゴ皇国は一度死んだ。
代々の帝が守ってきたものを、
チャグムが受け継ぐことはないだろうから、
その意味で国は滅びたというべきなんでしょう。
でも、土地に暮らす人の今日と明日が地続きである以上、
チャグムの造っていく国はやはり新ヨゴ皇国なんだと思う。
そこに、バルサとタンダがいることが嬉しい。

呪術師たち、草兵にとられた民、
思惑うずまく周辺諸国の人々、
そしてナユグで春を祝う数多の生命。
バルサやチャグムの目を通して見た世界を忘れられない。

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18:54  |  上橋菜穂子  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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