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2011.10.21 (Fri)

筋違い半介


筋違い半介
(2008/12/12)
犬飼六岐

半介は決して善人ではない。
強請たかりは平気でするし、
あらゆる道理には後ろ足で砂をかける。
だからと言って悪人でもない。
別にどこも壊れてもいない。
一体何なのか。

ただ一つ断言するなら、
迷惑で面倒な男には違いない。


【More・・・】

そこに道理があろうがなかろうが、
とにかく反抗するのがその性質なら、
道理という道理を違えずにはいられない半介は、
天の邪鬼とは違うのかもしれない。
鬼は道理そのものを嫌っているわけではないのだから。
でもそれは環境の問題なんだろうと思う。
多くの人が支持し、従うものを「道理」とするなら、
人に反しようとする天の邪鬼も、
理に背を向ける半介も結局同じ選択をすることになる。
一方で、兄の不可解な自死を知ったあとの行動は、
自分の利益のためであれ、哀れな兄のためであれ、
結果的にはその不条理を斬って捨てたのだから、
図らずも筋が通っていように見えた。
けれどその点について半介は頓着しない。
斬ったあとの身の振りようについてはこだわっているのに。
筋違いの通り名を誇らしげにするこの男が、
一体どこに重心をもっているのか分からなかった。

七編の短編を無理矢理一緒くたにしてみると、
半介という男の妙なねじれが、
どの話にも混入しているような気がした。
「死体を背負った男」や「女難街道」なら、
ぎりぎり人情ものというくくりにもできるし、
「口増やし」なら滑稽譚扱いが妥当かもしれないけれど、
それでもどこかそうと言い切れないものがあって、
これは一体何なんだろうと思いながら読んだ。
最後の「村破り」に至って、
このもやもや感はつまるところ、着地点のせいなのかもと思った。
「村破り」での侵入者・黒伏の要求は、
里山伏にとっても村人にとっても結構深刻なもので、
特に差し出される娘たちにしたら堪ったもんじゃない。
なのに、勝負は結局「祭り」に移行してしまう明るさで進む。
いんちきだ!と叫ぶ村人たちは、明らかに楽しんでいる。
その異常さが滑稽とも言えるかもしれないけれど、
どうにも事態の重さが気になって笑えなかった。
そんな風にどの話も設定や経過からは、
納得しがたいに着地されたような気がして、据わりが悪いんだと思う。
要はただの読者のわがまま、なんだろうなあ。

とはいえ、「死体を背負った男」は、
死人の懐から出てきた手紙のために、
たやすく自分の人生から遊離してしまう松蔵の単純さ、
どういう事情で新左衛門がそれを持っていたにしろ、
その手紙が確かにどこかの娘の現実だったという悲しさ、
そしてそうと理解し一度は胸を詰まらせながら、
結局は原点に戻って他人事だと思う淡泊さなんかが、
紙芝居のようにパタパタと流れていって、
子供さながらに次は次はという気分で楽しんだし、
「女難街道」は耳が遠いのを隠すというだけのことで、
事態が思わぬ方向にころころ転がって、
全部を了解しているっぽい奥さんのやり口と、
最終的な落としどころは上手いなあと思ったわけで、
なんだかんだで着地点に納得している気もする。
「おこう」なんかはもし他の年長の子視点だったなら、
全く別の話になっていたんだろうけれど、
小さな佐吉の目から見ると、すんなりと納得できる。
据わりが悪くても、この形しかあり得ないのかもしれない。

女にとっては迷惑千万という意味では、
「村破り」以上なのが「口増やし」で、
主人への嫌がらせで家人の女全員を孕ませてやろうなんて、
一体どういう思考回路だと思うけれど、
女たちが予想に反した反応をしたからというより、
それを思いつく村人たちが全く悪人ではないからこそ、
この話は笑い話寄りの位置にいられるんだろうなと思う。
半分あの世にいる婆ちゃん相手では仕方ないにしても、
夢見がちな生娘や酒乱の年増、口うるさい女なら、
やろうと思えばことを為せないこともないのに、
男たちはみんながみんなへいすいませんと畏まってしまうのだから、
全く持って悪事に向かない村人たちだと思う。
まあそもそも悪事なんて大それたことができなくて、
ちょっとした嫌がらせとして考えついたことなのだから、
本当に無理矢理やってしまう気はなかったんだろうけれど。
誰が一番の貧乏くじを引いたかと言えば、
婆ちゃんを昇天させてしまった与ノ助ではなく、
男の自尊心みたいなものを砕かれた久作でしょう。ご愁傷さま。

本人は自覚していないようだけれど、
牛蒡学者は子供たちに好かれていると思う。

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