2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2011.10.23 (Sun)

ロング・ドッグ・バイ


ロング・ドッグ・バイ
(2009/4)
霞流一

尾行をするには、
その足は向かない。
ポーカーフェイスは、
尻尾が邪魔をする。
彼らは忍ぶようには出来ていない。

それでも、
鼻と頭、それから仲間がそろえば、
犬にも探偵役が回ってくるのだ。
がんばれ、アロー。


【More・・・】

もしも人に羽根が生えていたら、
犯罪の幅は今よりもっと広くなる。
かというと、そうでもないと思う。
飛んで逃げる犯人がいるのなら、
飛んで追いかける警官もいるはずだから、
結局条件がそろった集団の中で可能なことは限られる。
状況が変わるのは、彼・彼女が異物である場合。
背中に羽根なんて突飛なものは必要はない。
五感の一つが鋭敏だとか逆に鈍感だとか、その程度でいい。
事件の関係者が一人そうであるだけで、
あっという間に「探偵」の理論は歪んでしまう。
そんなことを考えながら、アローの推理を聞いていた。
犬の体と頭で人間顔負けの捜査をするG8だけれど、
異物なのは人の犯罪に関わる彼ら犬たちなのか、
それとも犬の社会に影響してしまった犯人なのか。
どちらにしろ、八対一では人に勝ち目はない。
思いがけず犬に足をすくわれた犯人が少し哀れだった。

動物が探偵役の物語というと、
すぐに思いつくのは「猫たちの聖夜」で、
珍しいところとして羊の群れが探偵をする話もあるけれど、
物事の背後をひっそり探るイメージのせいか、
推理の黒幕は実は猫、的な物語が一番目につくように思う。
対して、犬はというと、
警察犬やら麻薬探知犬やら、
現実では大々的に犯罪捜査に携わっていて、
捜査能力の高さはお墨付きなのに、
探偵業にはあまり就職口がないような気がする。
人間の探偵の相棒という口ならなくはないし、
忍んで行動するという点で考えるなら、
伊賀でも甲賀でも忍犬の求人はあったかもしれない。
ただこれだけたくさんの犬が出てくるこの物語でも、
探偵と言えるのはアローだけなのだと思う。
事件解決に大きく貢献した8匹の犬・G8は、
彼らが口々に言うように、推理は任務に入っていない。
探偵が結論を出すために必要な情報を集めるだけ。
そのアローにしてもそういう仲間を必要なのだから、
やはり犬は探偵に向かないのかもしれない。

尻尾を振るという慣用句そのものの存在に、
ハードボイルドは同居し得ないんじゃないかと思ったけれど、
見事にそれを実現させるアローは確かに格好いい。
ただ、考えるのが仕事の探偵役よりも、
職人気質でくせ者ばかりのG8の方にくらっときた。
一瞬オーシャンの仲間たちを思い浮かべ、
でもやっぱり全然違うなと思い直した。
G8が深夜危険を冒して集う目的はもちろんお金などではない。
仲間の仇をとるとかそんな深刻な事態でもない。
ただ同じ町に住み、同じ平和を享受する者が、
不安と焦りを抱えているというだけのこと。
でも彼らが招集に応じるにはそれだけで十分らしい。
しかも最後のタネ明かしまで含めて考えると、
G8の男気は本当に気合いが入っていると思う。
鍵開けやら警備担当やら、はては変装やら、
犬とは思われない技をもっていながら、
その使い道の善良さが、犬だなあと思った。

アローとG8が追いかけていたものは、
追う者追われる者の双方にとって、
おそらく予想外に人間の領域に入ったけれど、
やっぱり根っこは犬の世界の話なんだろうなと思う。
そもそもの依頼がボンタだということを別にしても、
名犬と呼ばれて像まで建てられているレノが、
人間にだけでなく犬にとってもヒーローだったからこそ、
幽霊やらGODの降臨やらという話になるわけで、
逝って一年経つというのに、
いまだに人の口にも犬の口にも上る犬に会ってみたくなった。
アフガンハウンドの姐さんと大人の恋をしたり、
かと思えばビールでへべれけになったり、
エピソードを並べてみるとアローより探偵らしい。
きっと数人の人間の命を救った話は氷山の一角で、
表に出ないところでたくさんの犬がお世話になってたんでしょう。
ボンタがレノに出会えていたら、とか
詮無い想像までしてしまうくらい、
犬たちの中にレノの痕跡がはっきりと見えて、
もういない白い柴犬を勝手に偲んだ。

番犬をするのは「返礼」であるらしい。
彼らの礼節に見合う人間であらねば。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


18:57  |  か行その他  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/371-05086a8b

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |