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2011.10.31 (Mon)

若様組まいる


若様組まいる
(2010/11/5)
畠中恵

二十年前、何があったのか、
彼らはよく知っている。
そのために誰が何を失い、
一方でその何かを得たが誰だったのかも、
ちゃんと心得ている。
叫び出したい日は一日二日じゃない。

それでも、お天道様に家族に、
何より友に恥じないために、
若者たちは前を向く。


【More・・・】

時代の変わり目というものは、おそらく存在しない。
上に立つ人間がすげ替えられようが、
年号や文化・制度が一変しようが、
今日と明日の間にあるものは、変わらない。
それでも何かが変わるとしたら、
それは後から振り返ったとき初めて見えるものだと思う。
「あのとき」という距離でしか、
普通の人間には時代なんて見えない。
平成人から見れば、明治という時代は、
それはそれは変革の激しい時代で、
江戸との間には明らかな境界線が見える気がするけれど、
平成になってからの二十三年を比して思いつつ、
ご維新からの二十年が人生の全部である若様たちを見ていると、
その二十年は、どの時代の二十年とも同じ長さなんだなと思う。
当たり前に赤ん坊が大人になり、
世代間の隔たりは広がる一方で、歩み寄ることもまだできる。
二十年というのがそういう時間であるのなら、
激動の時代の中で次の一歩を惑う若様たちは、同士だ。

あったらいいながありました、「アイスクリン強し」の続編。
とはいえあのミナの菓子店での騒動の続きではなく、
若様たちが巡査になる前のお話なので、
続編というよりはエピソード0という感じ。
総じてみなまだ若く、迷いに充ち満ちていて、
したいことと、せねばならないことと、
そして自分にできることの間で、
妥協しながら道を探っていく様は、
胸が痛くなるほどの既視感だった。
とはいえ、ただ自分の人生がどうのという話だけではなく、
一般には新しい家族を築くときに発生するはずの責任、
誰かの生活が自分の選択にかかっているという重荷を、
若様たちは生まれたときから背負っているのだから、
迷いの大きさは想像するに余りある。
それを思うと、大将たる長瀬について行く形で、
進む道を決める若様たちが心配にもなるけれど、
平田が道を分かつことを自分で決めたように、
それぞれに自分だけのものを選び取るときがやがてくるのなら、
その時までは、心強い同道者がいるのは悪いことじゃない。

教習所に集まった若者たちの間にある、
個人と個人の関係以外のぴりぴりした距離感を見ていると、
本当に二十年前までは四民平等の世ではなかったんだなと思う。
徳川の世なら、長瀬たち若様と姫田たち平民が、
共に寝起きすることなどあり得ないし、
幕末なら、薩摩人と「賊軍」の若者の間に血が流れないなんて、
奇跡みたいなもんなんでしょう。
そういう意味では、江戸という時代は近い。
でも、どれほどにらみ合ったり、不満を抱き合っても、
実際に流血沙汰になったりしない程度には、
あの動乱は彼らその後に生まれた世代にとっては、
遠い場所になっているんだとも思う。
もちろん、若様たちが官慶での出世を端から諦めていたり、
薩長の出の玉井が自他共に出世を期待するくらいには、
彼ら若い世代にも過去は影響しているし、
長瀬が言うように、そのことで叫び出したいこともある。
でもおそらくそんな不満は程度の違いだけで、
どんな立場でどの時代を生きる人間にとっても、
飲み込まねばならない種類のものなのだと思う。
自分の過去だけでは、人は存在できないのだから。

今回は出番の少ないミナと沙羅嬢ながら、
自分だって同じように迷いの中にいるはずなのに、
試験やその他諸々の難事と戦う若様たちのために、
二人が暗躍する様は、まさに友情だなあと思う。
福田のための沙羅嬢の機転もさることながら、
各種裏の根回しから差し入れまで、
ミナの気配りはとても若様たちと同じ年代とは思われない。
本人は育った環境の違いだと思っているようだけれど、
園山の危ない気質や、福田の真面目さのように、
ここまでくると生来のもののような気がする。
若様の仲間たちの中では、ピストルの腕前を別にしても、
一番敵に回してはいけない男かもしれない。
若様たちが無事に巡査になり、
ミナが西洋菓子店を開いてからの様子を考えると、
ミナが保護者の如く友のことを心配するように、
若様たちや沙羅嬢にとっても、
ミナはいつまでも心配の尽きない友なのだと思う。
彼らの関係の清々しさが眩しい。

明治の世しか知らない若者たちを、
見つめる大人たちの視線に混じるものが、悲しい。
それでも希望を託してくれる人がいることが嬉しかった。

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23:11  |  畠中恵  |  TB(1)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

今と違い衛生管理も警官の仕事だったんだなあって思うと
なかなか警官というお仕事…
今も昔も体を張ってたんだなあと思います。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
藍色 |  2012年03月02日(金) 18:23 |  URL |  【コメント編集】

●Re: タイトルなし

コメント・トラックバックありがとうございます。
若様たちの奮闘を見ていると、
どんな仕事も始めの五里霧中は変わらないんだなとも思います。
仕方ないとはいえ体を張る場面はハラハラしますね。

あこん |  2012年03月14日(水) 18:42 |  URL |  【コメント編集】

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