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2011.11.04 (Fri)

一鬼夜行 鬼やらい上/下


一鬼夜行 一鬼やらい上
(2011/7/5)
小松エメル

鬼は人を喰う。
幻を見せて人を惑わせもすれば、
災いを連れてもくることもある。
だからこその、鬼は外。

鬼顔負けの鬼面が知る鬼は、
人顔負けのお人好しだから、
全くその限りではないけれど。


【More・・・】

魂とかいうものが精神とイコールで、
三つ子のそれが百歳まで不変だというのなら、
社会なんてものは全く成り立たない。
子供も大人も第一線から退いた人々も、
みんながみんな三つ子ではやってられないでしょう。
だから、もし本当に、
幼子の頃から死ぬまで変わらないものがあるのなら、
それは決して表面には現れることのない、
本当に人の底の底にある流れなのだと思う。
そしてその流れをずっと辿っていったなら、
どうやったって出会えないほど遠い、
血脈のどこかにたどり着くのかも知れない、と
不器用大魔神・喜蔵の中にある要素と、
妖怪たちがもつ、この男の上におわす人々の記憶を比して思う。
虚勢でも格好つけでもなんでもなく、
当たり前に独りで生きてきたような顔をする喜蔵でも、
祖父に愛され、母に愛され、
何より曾祖父にうり二つの魂をもっていることが、
妖怪たちと同じ目線で嬉しかった。

小春が夜行に帰ってしまったので、
続編ではとりあえずまた来て貰わなくては、だったんですが、
また、を願っていたのは読者だけではなかったようです。
怪しい月夜の度に夜空を見上げて待つ、とか
いつの時代の乙女だ、という感じの喜蔵は、
前回に輪をかけて不器用っぷりが上がってる気がする。
付喪神たちや小春と関わることを通して、
己も人の間で生きる者なんだと自覚したはずなのに、
そう簡単に性分や習慣は変わらないらしい。
兄と妹だから共に暮らして当然、という周囲の考えには、
必ずしも頷くわけではないけれど、
兄たる喜蔵も、妹たる深雪もそれを望んでいるのなら、
お兄ちゃんはさっさと腹を決めるべきだとは思う。
父に蒸発され、母に置いて行かれ、
祖父と死に別れた経験をもつ喜蔵は、
おそらく裏切りと同じくらい別れを恐れている。
だから新しい繋がりを深めるのが怖くて、
妹に対してもう一歩をなかなか踏み出せないんでしょう。
でも、弥々子に語っているように、
別れがいつくるのか分からないことをちゃんと知っているのなら、
尚更、怯えている時間はない。半年は、長いぞ喜蔵。

すっかり店の付喪神たちとのやり取りに慣れ、
鬼の再来を夜ごとに待っていたとはいえ、
喜蔵と妖怪たちの間の境界線がなくなったわけではない。
人である喜蔵の側からすれば、
その境は見えないし感じられもしないものだけれど、
あちら側の者たちはみなそれをはっきりさせた上で、
お人好しな喜蔵や彦次と、
言葉や情を交わしているように見えた。
かつて人だったという百目鬼でさえ、
人のようななりで喜蔵を相手に飯を食いながらも、
鬼に喰われ、人を喰うようになった、なんて話を、
牛鍋を食いながらしてしまうあたり、
陰惨な戦場を目にしても何も思わない物たちと同じに、
人の心を分かることはもうできないのだと思う。
それほどに、ここに描かれる人と妖怪の世は隔たっている。
この先小春と喜蔵がどう付き合っていくとしても、
二人の見ているものが同じになることはおそらくなくて、
越えられないものを感じるたびに、
百目鬼の見せた触れられない幻の中にいるように、
喜蔵は立ちすくむのかもしれない。
鬼面のお人好しの肩を叩いてやりたくなった。

多聞という男の真意が一体どこにあったのかは、
最後までのらりくらりと躱されてしまった。
遊びだ暇つぶしだと言いながら、
多聞が喜蔵や小春をかまうやり方は、
手間がかかる割に効果のよく分からないもので、
それ以外の何かが含まれていると勘ぐってしまうのは、
それが人の性分だから、というだけではないと思う。
小春なら、したいからするのが妖怪で、
大層な理由なんかあるか、とか言うだろうけど、
多聞は喜蔵と遊ぶのを楽しんでいるようには見えない。
むしろ、何かに決着をつけなければ、というような、
妖怪らしからぬ痛々しい覚悟のようなものまで、
その笑顔の下に透けている気さえする。
もっと親しくなったら、と言っていたけれど、
鬼の言う将来の話なんて信用ならない。
野暮ったく言い換えるなら、
このシリーズ次があるのかがすごく不安です・・・。
また小春はあちら側へ帰ってしまったし。
喜蔵が待ちぼうけで死ぬ前に帰ってきてほしいなあ。

硯の精と若君にまつわる昔話が、
百目鬼が見せるどの情景よりも辛かった。

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