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2011.11.26 (Sat)

宇宙戦争


宇宙戦争
(2005/4)
H.G.ウェルズ

それが本当に本気の侵攻であるのなら、
侵略者たちは予告しない。
予兆さえ感じさせないよう慎重に、
ある日突然彼らは飛来する。

備えるのは難しい。
けれどまあとりあえず、
未知の落下物に不用意に近づくのは、
やめておきましょう。

【More・・・】

今までがそうだったから、
これからもそうであり続けるなんて理屈は、
理屈にさえなっていないのだけれど、
そういうことにして思考を放棄しなければ、
日常が立ち行かなくなる事柄というのはある。
自分や自分の大切な人間がいつか確実に死ぬことは、
おそらくそいういう事柄の最たるもので、
何の疑問もなく自然に「いつか」とか書いていること自体が、
本当は自分もその理屈の信奉者であることを示している気がする。
「いつか」私たちは死ぬし、
もっと先の「いつか」人類は滅びるのだろうし、
やがて地球が生命の星でなくなる日だってくるのだろう。
でも、それは今日じゃないし、明日じゃない。
ところがどっこい残念なお知らせです。
今日、その全部が火星人によってもたらされます。
なんてお知らせされた英国人たちの序盤の楽観は、
さもあらんという感じで滑稽ながら背筋が冷たくなった。
物見遊山で未知のものに近づく様は、
極地のペンギンが人間を警戒しないのと全く同じ心理で、
その後語り手が何度も人類をネズミや虫に例えることと合わせて、
人が今の地位を失うときというのは、
何が原因でもこんな風に始まるのだろうなと思った。

ホーガンの描くガニメアンと、
ここで描かれる火星人の文明の発達度には、
おそらくそれほど差がない。
火星人が使う兵器程度のものはガニメアンだって作れるだろうし、
結局金星に目を向けたくらいだから、
ある程度自由に惑星間を移動する技術も火星人にはあるんでしょう。
だから、万事劣った人類に接するときの真逆のやり方は、
単に必要が進化のどこで発生したのかによるのだと思う。
彼らはどちらも母星の外に新天地を求めていて、
その点では同じ必要に迫られているわけだけれど、
滅亡の未来が文明進化の方向性に影響を与えてしまうほどに、
火星人のそれは宿命的だったということなんでしょう。
単純に言えば、その事実と向き合った時間の長さの差が、
人類を「障害」かつ「食糧」と見るか、
尊重すべき知的生命体として認めるかの分かれ道になっている。
それはガニメアンが侵略者になった可能性を示す一方で、
あの醜悪で残虐で、かつ子供のように無邪気な火星人が、
共生を探る交渉のテーブルに平和につく道もあったことも示していて、
それを考えると、蹂躙される英国を憐みつつ、
生き残るための必要の結果として、
闇の彼方から飛来した火星人の姿も憐みを誘う。

どうやら生き残ったらしい「私」の視点で描かれるので、
巨大戦闘マシーンや毒ガスで滅茶苦茶にされても、
最終的に人類が完全に駆逐されることはないんだろうと、
安心して読んでしまったので、
政府や群衆の危機感がいまいち切迫して感じられなかった。
特に実際に火星人や虐殺の様を見たわけでもなく、
主な交通手段が鉄道か馬車である時代の都合もあって、
圧倒的に情報が足りていないはずのロンドン市民が、
都市を空にするほどの危機を感じることができたのか分からない。
ただ、「私」の弟と同道することになった夫人の混乱具合から考えると、
結局逃げ惑う人々が感じていたのは、
火星人の危機ではないのかもしれない。
「私」は戦争にさえなっていないと言っているけれど、
現場にいない民衆の視点から見れば、
火星人だろうが他国の敵だろうが、
生命と生活を脅かす存在が迫ってくる(らしい)という点では、
何の違いもなく、状況はまさに「戦争」なのだと思う。
脅威が去った後、敵と実際に相対した者とそうでない者の間に、
例の小冊子に見られるような温度差が生まれるのも、
やはりあの数週間英国が「戦時下」にあった証なのだろうと思った。

兵士でも記者でもない、
ただのインテリ階級の人間の一人でありながら、
思いがけず戦場の最前線に取り残された人間にとって、
火星人と彼らがもたらす破壊は理解の範疇を超えてしまう、
ような気がしたのだけれど、
「私」が思いの外冷静かつ的確に事態に対処するので、
この人本当にただの物書きか?と思ってしまった。
まあ同じインテリであるところの神父補が壊れたり、
緊急事態に頼られる側であるはずの兵士が現実を見ていなかったりするので、
結局想定外の事態に遭遇したときに生死を分けるのは、
普段属している集団や教養ではなく、
個人のもっている資質とあとは運なのかもしれない。
とはいえ物見遊山に現場への逆戻りにお荷物との同道に…、
生き残る上でのマイナス要素をこれでもか積み上げた上で、
大した怪我をすることもなく「私」が生き延びたのには違和感。
しかも弟や妻も含めて誰も欠けなかったのは、
やはりでき過ぎ、というか「物語」の力が働き過ぎな気がした。
語り手がいなくなられては困るのは確かなんですが。

1年後にはきっと元通りに、なんて
希望を語るのは悪いことではないけれど、
火星人にこれだけの敗北を喫しておきながら
明日更なる襲来があるとは思わないあたり、
一度根付いた思考回路はなかなか切り替わらないものらしい。

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