2017年07月 / 06月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫08月

2011.12.03 (Sat)

償い


償い
(2003/6)
矢口敦子

一程度の残虐非道をなせば、
その先はいくらやっても同じ、なんて
そんな理屈はないし、
ささいな過ちであっても、
罪悪感と行為は別の場所にある。
その意味で、罪に上限はない。

極刑という言葉の虚しさ、
償いという言葉の怪しさが、そこにある。

【More・・・】

恩も恨みも罪も、目には見えない。
もちろん手で触れることもできない。
現実に存在するのは行為と、それに付随する結果だけ。
だから、それを返すの晴らすの、
ましてやり取りするのという話は、
いわば当人たちにとってだけ意味のある、
言い換えれば、他者には関与できない領域の話なのだと思う。
いや、当人たち、と複数形にすることさえ、
本当のところできないのかもしれない。
恩を恨みを罪を感じる当人以外には、
たとえそれに巻き込まれる相手であっても、
その重みを正確に見積もるのは困難でしょう。
だからこそ日高も真人も、
社会秩序のために設定された罪や罰も、
死んだ人間、殺された人間も置き去りにして、
自ら認めた罪に勝手に量刑を与えてしまっている。
人が人を裁くことの是非なんて、
少しの入る余地も無く突き進む二人の姿は、
あまりに潔癖で、気味が悪く見えた。

ミステリの中で探偵役を仰せつかる人間は、
それが「役」であることからも明らかなように、
大抵別の職業、義務をもっているものだけれど、
役と職が一致している探偵と、
職自体がないホームレスの間に違いはほとんどないんだな、と
日高が有り余る時間を使って調査する様子に思った。
違いは調査する上での金銭的余裕と、
風体くらいのものかもしれない。
その辺で寝っ転がって張り込んでいても、
嫌な顔はされても不審には思われない点では、
日高の方が調査に融通が利くとも言える。
まあ移動手段が徒歩のみだったり、
聞き込みするのに自分の風貌から尻込みしたり、
果てはいらぬ疑いをかけられて留置所送りになったり、
探偵をこなす上での障害は色々とあるので、
そもそもただ生活するのにもギリギリな人たちに、
勧められる職業ではないか。山岸さんひどい人だ。

日高が「ナイフ魔」の調査をするのは、
真人の無実を確かめたいがためで、
それはつまり過去の自分を肯定したい思いが起点になっている。
妻子を失うことになった経緯を考えれば、
確かに日高には責められるいわれがあるし、
ヤコブ病で亡くなった患者の件にしたって、
執刀医だった以上責任はあるのだろうとは思う。
それが人の生死に関わる罪である点から想像すれば、
人生を投げ出してしまうのも分からなくはない。
刑法が裁いてくれない罪を自分で決めるのも道理に適っている。
でも、罪の重さに喘いだ挙げ句、
それを負うべき「日高英介」を捨てて別の町へ逃げたくせに、
「日高英介」だった頃の善を信じたいがために、
目を曇らせる疑念にとりつかれて、
結局のところ、誰の命も心も本当には救えないまま、
自分だけ許しを探し出して得ているのだから、
全くもってこの男には苛々とさせられた。
子供を正しい道に導いてやりたいと思う善性は認めるけれど、
それさえも息子への負い目に端を発しているのなら、
真人を抱きしめる資格はないと思う。

一方、社会や人間に対する思想の点では、
日高とはかなり違ったものを持っている真人だけれど、
根っこのところで二人は同じである気がした。
心停止によって脳細胞が云々という説明があろうがなかろうが、
他人の声に出ない嘆きが聞こえるという主張は、
この物語の中では与太、あるいは疾患にしか見えない。
草薙真人という少年はざっくり言ってしまえば、
感受性の塊のような子供、かつ、
もの凄く間の悪い子供、なのだと思う。
母親の心が半分壊れている家庭環境の上に、
聡くて傷つきやすい心が非を感じざるを得ない状況への度重なる遭遇、
さらには実際に犯したたった一つの罪が、
真人を追い詰めているように見える。
現実に及ぼした自分の行為の影響を、
悪い方向に過大に評価してしまうという点で、
日高と真人は酷似しているけれど、
自分で設定したその罪から逃げずに償いの道を模索する分だけ、
真人の方がまだ前向きに世界と向き合っている。
その結果がサバイバルナイフだからこそ、
この子の無垢さは危険なのだとも言えるのが悲しい。

似たもの同士の二人の横で、
夕子さんや山岸さんや、
川路家の事件が始まって終わっていく。
決着はついているけれど、釈然としなかった。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


23:04  |  や行その他  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/383-5be537c1

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |