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2011.12.04 (Sun)

NO.6 #9


NO.6 #9
(2011/6/14)
あさのあつこ

血も涙ももう十分に流れた。
謎は明かされる時を待っている。
終幕のときは、すぐそこに。

最後の舞台へ急ぐ役者たちに、
熱い拍手と温かい眼差しを。

【More・・・】

今そこにあるものを変化させるよりも、
一度全部壊して真っ新にしてから、
その空地に何かを作り上げる方が多分簡単で、
だからこそ破壊が創造の前段階のように言われ、
その後に美しい創造が待っていればこそ、
破壊に伴う苦痛は是とされる。
でも瓦礫の山の上に新たに作られるものが何かなんて、
本当は壊しているときには分からない。
誰も何も保証できやしない。
だから紫苑が立っている場所は、
一分の差もなく、NO.6を創造した人々と同じなのだと思う。
理想郷の崩壊に際して起きた悲劇や、
エリウリアスの脅威を体験として知っていることは、
何のアドバンテージにもならない。
あの見せかけの理想郷を築いた人々も、
惑星単位の同じ悲劇を知っていたはずで、
その結果がNO.6だったのだから。
紫苑自身が思うように、
崩壊のあとに続く数十年が不安でならない。

物語は終着点に向けて加速していく。
矯正施設の脱出から市庁での幕引きまでの速度は、
今までの展開を考えるとびっくりするくらいの速さで、
なんだか勿体ないような気分になった。
NO.6の成り立ちやエリウリアスとネズミの関係について、
紫苑がイヌカシと力河に語る場面も、
もう少しじっくり味わいたかったように思う。
まあ市民が市庁に押しかけている状況で、
腹ごしらえをしながら話をしようというのだから、
十分以上に悠長ではあったのかもしれないけれど。
もう一つ残念だったのは、
紫苑やイヌカシ、火藍の述懐はあったのに、
ネズミの内面はほとんど語られないまま終わってしまって、
矯正施設での体験を経て、
イヌカシが敏感に感じ取っている紫苑の変化について、
最終的にネズミがどう感じていたのか、
振り返らなかった胸の中で何を思っていたのか、
ネズミ自身の言葉で語ってもらいたかった。

羽化とともに宿主を即死させる寄生蜂以外は、
基本的には近未来SF的立ち位置で話が進んでいたので、
エリウリアスというミステリアスな存在であっても、
どうにか科学の中に入れるのだろうと思っていたんですが、
どうやら寄生蜂も含めて超自然的存在だったらしく、
完全に読み間違えた感があって少し悔しい。
沙布に語りかける場面を思い返せば、
ネズミがらしからぬ「カミ」という言葉を使うのにも頷ける。
「歌う者」として、エリウリアスに願うネズミに対して、
決断の前に何度も「いいのか」と問うのは、
もう一度だけ、という人間の言葉など、
彼女には大した意味がなくて、
それでもわずかに気にかけていたのが、
「森の民」のことだからなのかもしれない。
NO.6に殺された者たちの中で、
一番純粋に創始者たちを恨めるのは彼らで、
エリウリアスがこのタイミングで一斉羽化を始めたのが、
森の民の、つまりはネズミの思念に感応してのことなら、
ネズミは真に望みを遂げたことになる。
凛と立つ少年たちを見下して「カミ」が笑った気がした。

あの崩壊を経験した者たちが、
その跡地にどんな街を作ろうとしているのか、
エピローグからはあまり読み取れない。
もちろん、エリウリアスを支配に利用したり、
統制の外にいる者たちを排除したりはしないだろうけれど、
だからと言って簡単に理想郷が立ち現れるかといえば、
決してそんなことはないだろうと思う。
同じ轍は踏まなくても、
別の場所にいくらでも「NO.6」に繋がる道はある。
将来への危惧は決してなくなりはしない。
でも、シオンが無事に3歳になり、
市の中心で街を作っている人間が休日に犬を洗い、
大人たちが年甲斐もなく恋なんかできるなら、
少なくとも、今のところは安心していいかもしれない。
NO.6への恨みで動いていた者たちが描く理想郷ではなく、
ネズミが帰ってくる場所として、
紫苑が街の未来を考え続けられる限りは、
そうそう大きく道を踏み外すことはないでしょう。
もし誤ったときは、ネズミが今度こそ紫苑を殺すはず。
それはそれ、とか思っちゃダメなんだろうな、多分。

乗せられているのは重々承知ながら、
誓いの、とか、再会を、とか、
イヴもといネズミに惚れている人間は一人じゃない。


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