2017年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2011.12.16 (Fri)

ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔


ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔
(2011/10/14)
京極夏彦

モニタの外の臭いを身にまとわせて、
命がけの夜を走り抜け、
共に、罪を知った。

毒が彼女たち呼び寄せるとき、
少女たちは再び集う。

【More・・・】

精々が百年しか生きられない生き物だから、
人は言葉を用いることで過去を伝承する。
決して自分のものではない記憶を、
子供たちは問答無用で渡される。
この少女たちもそれを確かに受け取っていて、
ほとんどの事象が情報に落とし込まれる時代だから、
バトンは今よりずっと重いはずだと思う。
それでも、少女たちはどこまでも軽やかだった。
スクロールした画面が伝える過去や今を読んだ上で、
彼女たちは自分たちがまだ十数年しか生きていないことを忘れず、
その時間分の経験と思いだけを信頼に足る足場にして、
痛くて汚くて熱い現実と向き合っているように見えた。
彼女たちがそんな風な姿勢を獲得するきっかけは、
おそらく三か月前の狼にまつわる事件なんだろうけれど、
もしかしたらそれは結局はきっかけでしかなくて、
そもそも少女たちをリアルから切り離す術などないのだとしたら、
美緒も律子も全く特別な少女ではないのかもしれない。

ルー=ガルー ― 忌避すべき狼」から十年、
また彼女たちに会えるとは思っていませんでした。
前作は物語の着地点としては文句の言いようがなくて、
行き遭った者を屠る狼、というモチーフからすれば、
あれ以上のものはないとは思っていたんですが、
物語全体の話とは別に偏向を承知で言うと、
彼女があまりに哀れで、望みを叶えてやりたくて、
あんな終わりはあんまりだと思っていた。
そんなことを思い続けてきての続編だったので、
彼女たちが新たに巻き込まれた事件の顛末よりも、
あの子が救われるかどうかばかりが気になってしまった。
そしてその点に関して言えば、救いは与えられなかったわけで、
今回あまり動きを追われなかった彼女の心中を思うと、
どうにもやるせない気分になる。
しかも救われるどころか、罪ばかりが増えてしまった。
何やらまだ先のありそうな雰囲気だけれど、
最終的にまた彼女に「平気だ」と言わせるなら、
京極くん、ただじゃおかないぜ、というくらい、
狼にがっつり心奪われっぱなし。

雛子が律子に残していった「毒」を中心に、
少女たちがそれぞれ勝手に動き回って、
結果、再び集うことになるのを見ていて、
彼女たちそれぞれのあの夜からの三か月を思った。
律子にとっては夢と現の間を行き来する日常で、
葉月にとっては歩未を思う毎日で、
歩未にとっては長い長い責め苦の始まりで、
常に危険のそばにいる美緒や麗猫にとっても、
おそらくあの夜の前と後では何かが内部で変わったんだと思う。
でも、常に首から「毒」を下げていた雛子にとっては、
あの夜死にかけ、生き延びたことは、
非日常側のある一幕でしかなくて、
毒と兄に挟まれて煩悶するというその日常には、
直接は影響していないように見える。
七つで毒を託されたときから、毒を使うと決めた瞬間まで、
あの夜を単純に非日常側に分類できてしまうほど、
雛子の世界がそれだけでいっぱいいっぱいだったなら、
祖父の思想よりも選択そのものが残酷だと思う。
とはいえ、あんなにたくさん人が殺された夜が、
彼女に寂しいときに会いに行く友を与えたことが、
悲しいけれど、嬉しい気もする。

バカをして危機に陥っているらしい友を助けること、
厭なのに連れていかれた友を救い出すこと、
単純に言えば彼女たちが危険を犯す理由はそれだけで、
そこには小山田の機関が追っている企ては関係しない。
その目的の過程で少女たちは人を殺すけれど、
狼を目覚めさせる「その瞬間」は訪れていないのだと思う。
その上、美緒がカメをぶっ放し、
歩未がナイフを翻し、麗猫が足を振り切り、
律子がアクセルを吹かせる理由もそれぞれ違っていて、
誰一人他人の理由、他人の心に乗っかっていない。
ルー=ガルーではない少女たちは、
自分が子供であることを自覚しながら、
だからと言ってそれを理由に自分の心を殺さず、
それを逃げ道に自分たちを正当化もしない。
橡は歩未のまっすぐな眼差しに怯んでいるけれど、
六人の少女たちはみんな同じ目をして、
違うものを見ているような気がした。
こんな少女たちを育てるなら、
前時代を生きたお偉いさんたちが憂う世も捨てたもんじゃない。
ひとごろし、に目をつぶれるなら、だけれど。

雛子が兄のことを語った段階で、
男がスクブスにどんな夢を見ているのか分かってしまった…。
あんなのと同じ思考回路とか、嫌だなあ。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


16:25  |  京極夏彦  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/387-74b8f9d6

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |