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2011.12.28 (Wed)

ノルウェイの森 上/下


ノルウェイの森 上
(2004/9/15)
村上春樹

世界で一番簡単に終わらせられる命が、
誰の手にも握られている。
それを選ぶのに必要なものは、
どこにでも転がっているだろう。

その死は、死者にとってではなく、
生者にとっていつも理不尽だ。

【More・・・】

もう死ぬしかない、などと叫んで、
物語の中の人間が死のうとした途端に、
ああもうどうでもいい、とか思う。
まるで死が最後の切り札であるかのように、
後生大事にそれを抱えて生きていたというだけで、
彼らの美しい部分は台無しになる。
明けない夜はないとか、希望がどうのとか、
そういうことを偉そうに言うつもりはないし、
一つの明るい要素もなしに終わる一生もあるとも思う。
だとしても、自らそこへ駆けて良い理由にはならない。
なってはいけないと盲目的に信じている身では、
一人また一人と自ら命を絶っていく物語は、
やるせなさや悲しみではなく、
ほとんど怒りに近いものを感じさせるものだった。
苦しみながらでも生きているときには、
彼らは美しいものや貴いものをそれぞれ持っていて、
そこを好ましいと思ったりもしたのに、
最後には結局裏切られたような気になってしまった。
もう生きているだけで良いよ、と「僕」に言ってやりたい。

17才で自分を終わらせたキスギだけでなく、
ハツミさんも直子も、その姉も、
なぜそれを選んだのかは、
どれほど親しくても、想像を巡らせても、
本当のところは誰にも分からないんだろうと思う。
それは彼らが故人になってしまったから、というより、
明確な何かがあって死を選ぶ、という前提自体に
そもそも無理があるからなのかもしれない。
決してそれを選択肢にも入れないと思っていても、
ちょっとハンドルを切るだけで、
あるいは半歩足を前に進めるだけで、
終わってしまうようなところで生きているのだから、
ひどい言い方をすれば、好奇心でだって人は死ぬ。
そのとき、死者は生者を置き去りにする一方で、
置き去りにされる場所に行くということでもあるんだな、と
17才のキスギや21才の直子から、
一瞬ごとに離れていく「僕」を見ていて思った。
自死は本人にとっては理不尽でも何でもないけれど、
残される痛みと死者を忘れる痛みはどちらも理不尽だと思う。

直子が最終的にそれを選んだ理由は分からない。
でも、なぜ直子が精神の均衡を失い、
なぜ「僕」が直子を特別に思ったのかは分かる気がする。
近しい人間を亡くしたとき、
その死と一緒に残された者の一部分が死んでしまうことは、
そう珍しいことではないけれど、
それぞれのやり方で喪の作業をすることで、
人は死んでしまったその部分を切り離すのだと思う。
切り離してどこかに納めて、たまに取り出して想うことで、
死者に対する罪悪感のようなものを供養という言葉に換える。
多分、直子はそれに失敗した。
喪の作業を行い損なったか、
あるいは作業が困難なほどキスギと共有部分が多かったのか、
どちらにしろ直子はちゃんと彼を見送れなかったんだと思う。
故郷を離れて、偶然「僕」と再会したときも、
彼女がまだ死者を悼む方法が分からないままだったのだとしたら、
真理とか何とか言って悼んだ気になっていた「僕」にとって、
彼女がかけがえのないものに見えるのも道理だと思う。
本当に、彼らはキスギを介してしか繋がっていなかったんだなあ。

永沢さんは端的に言ってひどい男で、
彼と一緒になりたいと思うハツミさんの気が知れないけれど、
好きになるのは、まあ仕方ないよなという気もする。
この人のひどいところは、
自分の言動が人を傷つけていることを知りながら、
それを理由に自分を改める気がさらさらない点で、
さらに性質が悪いのは、それが美点でもあるところだと思う。
自分の行為が誰かを傷つけたり貶めたりすることを理解した上で、
それを実行するなんてなかなか出来ないことで、
もちろんそんなことしないのが最善だけれど、
すると決めてしたのなら、
した後に反省したり後悔したりするのが一番おかしい。
永沢さんは傷つけた上で、
他人の傷や自分の汚れから目をそらさない。
したくてしたことをなかったことにしない。
そういう姿勢が格好良く見えるのはとても分かる。
自分の周りはほとんどクズと言って憚らない、
本当に憚らないだけの努力で結果を勝ち取る男が、
結局どこまで行けたのか、気になるところではある。

レイコさんが「僕」のために直子の葬式をしたように、
誰かが直子のためにキスギのをしてやれたなら、
もしかしたら違う終わりもあったのかもしれない。

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