2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2012.01.01 (Sun)

短歌ください


短歌ください
(2011/3/18)
穂村弘

言葉には限界がある。
それが一つの形式である以上、
取りこぼされるものは存在する。
だというのに、たかが三十一文字、
一体何を込められるというのか。

なんでも、いくらでも。


【More・・・】

感情や思いは不定形のもので、
同じ人間の悲しいや嬉しいでも、
いつも決まった形で生まれるわけじゃないし、
時間を経れば変質したりもする。
その形も境も定まらず、互いに癒着したりするものを、
たった31文字の中に落とし込むのには、
それはそれは鋭敏なセンスと、
類い希な技術が要るような気がしていたけれど、
思えば、ぐにゃぐにゃに形を与えるという作業は、
言葉を用いるときには常に発生していて、
あるぐにゃぐにゃを相応しい箱に押し込めることは、
誰もが日々やっていることだったんだな、と
31文字の箱がもつ容量の思いがけない大きさに感じた。
たった4文字の「悲しい」や「嬉しい」ではなく、
同じ思いを31文字も使って表せると考えれば、
伝えられる感情の動きの微妙さにも納得がいく。

五七五七七の形が基準としてあるだけで、
他の制約は何一つなく、
字余りや字足らずによってその字数にも柔軟性があるのだから、
短歌はその雅なイメージよりもずっと自由だった。
何より肌になじんだリズムのおかげか、
読んでいてとても気持ちが良い。
わりと字余りで詠んでいる人が多いので、
五七五七七のままさらりと読み下せるものは少ないけれど、
末尾が変則的に七十とかになっていても、
歌として全体が統一されていれば、
何のこともなく、存外自然に読める。
だからと言って、もしも五七のリズムなしに、
単に31文字前後というルールだったなら、
こうはいかないんだろうなという気もした。
心地良いリズムと文字数それぞれに、
少しだけの振れ幅を認める短歌という形式は、
まったく天才的な発明だと思う。

歌人という肩書きはどこで得られるのか知らないけれど、
いわゆるプロではない人たちの歌ばかりなのに、
何度も何度もはっとさせられた。
メールで投稿できるという手軽さで募集されているので、
携帯やPCでそれが可能な人は誰でも送れる。
ということは、信号待ちで隣にいたあの子とか、
コンビニでいらっしゃいませを言ってくれたあの人とかが、
鋭く刺さってくる歌の詠み手であるかもしれず、
ひっくり返せば、投稿も詠うこともない誰の心にも、
歌に表されているような狂気や寂寞や温さがあるということで、
当たり前のこととはいえ、それは怖いことのように思える。
穂村さんは何度も「怖い歌は良い歌」と言っているけれど、
誰の中にもぐにゃぐにゃが目一杯詰まっているということ自体が、
たまらなく怖くて、不安になってしまう。
「怖い」もまた三文字の箱だということを鑑みれば、
どういう歌にそれを感じるか、というのも一つの物差しかもしれない。
『この部屋にはてんとうむしを閉じ込めてあるからこれはひとりごとじゃない』(月下燕)
『きみのくび切取線が描かれてた大丈夫だよわたしがまもる』(シラソ)
ああ、怖い。悦い。

感情に形を与えるという意味合いを少し外れ、
記憶や実際にあったことを切り取る形の歌も結構あって、
もちろんそこには一定量の思いが含まれているんだろうけれど、
単純に情景を思い浮かべるだけで笑ってしまったりした。
同じ事態に遭遇したとしても
それを歌に落とし込んでしまえるのは、やはり感性の鋭さだと思う。
『母さんは池に消えてた物干し竿かついで祖母が走らなければ』(やすたけまり)
子供が池で溺れかけたという話なのに、
物干し竿をかついで必死に走っているおっ母さんを思い浮かべて笑い、
その事件が子や孫の間で語られている情景に目を細める、という
悲劇性の全くない温かい歌になっている。すごい。
何を歌の中に描き出すにしろ、
頭の五文字から順に読んでいく以上、
最後の七文字にはやはりオチのような意味合いがあるようで、
『テスト前何だか気持ちが昂ぶって頭の中がリオデジャネイロ』(赤井りんご)
一読して笑い、声に出してみて、傑作だと思った。

たくさんの歌に刺激されて、
一句詠ってみようかと思ったけれど、
どうにも形にならないので他人の歌でごまかしておく。
『便座抱ききっとこのまま私死ぬ 一緒に食べた君もどこかで』(りっこ)
スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


14:08  |  穂村弘  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/392-6415b991

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |