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2012.01.05 (Thu)

オリエント急行の殺人


オリエント急行の殺人
(2003/10)
アガサ・クリスティー

説明も釈明も必要とせず、
ただあるべきものがあるべきようになる。
それを妨げるものは存在しない。
お約束はなんとも心地良い。
けれど、けれど悲しいかな、

そんな約束、した覚えはないわ。

そう言われるのは、もっと気持ちいい。

【More・・・】

壁の奥に塗り込められた娘の怪談でもない限り、
本当に出入りできない密室なんて存在しない。
出入り口を全部閉じたとしても、
乱暴な手段にでればいくらでも方法はあるし、
最初から出入り口がないならば、
そんなのは部屋ではなくただの箱でしょう。
だからミステリーでもてはやされる密室は、
誰にとってとか何をする上でとか、
そういう条件の上にはじめて成立していて、
かつその「誰」や「何」が不可能に見えるからこそ、
探偵たちの頭脳が試されることと相成る。
ミステリーにおいて重要なのは、
おそらくこの「見える」部分なんだろうと思う。
いくら不可能に見えても、
現にそれが起こっている以上不可能なはずはないわけで、
密室でないものが密室と捉えられてしまうように、
可能が不可能に見えるのはどこかで条件を見誤っているから。
オリエント急行という半密室で起きた事件の真相は、
まさにミステリだった。

特別本読みやミステリ読みでもなくても、
コナン・ドイルのホームズとアガサクリスティーのポアロ、
二つのセットは教養レベルだと思うけれど、
恥ずかしながらホームズとは随分昔に数度まみえた程度、
ポアロとは今回初めて出会った。
ホームズがワトソンくんとセットで、
名探偵の定型イメージになっている一方で、
ポアロというもう一人の探偵には、
捜査スタイルや人格、そもそも外見についても
ほとんど何のイメージを持っていなかったので、
事件に取り組む様子を見ながら、
なんだこのおっちゃんは、と率直に思った。
これがかの有名なポアロなのかと本気で疑った。
関係者から言質をとる手法や、
そもそも人を見るやり方が偏っていていやらしい。
人が死んでる事件を扱っているというのに、
それを自分の頭脳の活躍の場のように捉えていて、
類い希な思考回路をもっていなければ本当にただの俗物中年だと思う。
ボロっくそに言いまくってますが、
好きか嫌いかなら迷わず好きの札を上げてしまう、なんだこの人。

証言と証拠、その他関係者の細かい言動まで提示されて、
さあ推理せよ、という感じで投げられて早々、
コンスタンチン医師やブーク以上に遠くへ思考を投げた。
容疑者になり得る人物が12人というのは、
それほど多いとも言えないのは分かっているけれど、
その問題の約2時間に何が起きたのか、
時系列に証言を並べることさえできないのだから、
探偵業には全くもって向いていない。
ので、さっさと探偵に説明してもらうことにしたところ、
示された真相その1にもそれなりに納得して、
その2で、ああやられたと思った。
解説の「あなたたちとそんな約束をした覚えはないわ」が、
まさにその通りでございます、といった感じでしみる。
12人のうちの誰か、の意味を完全に反転させて、
矛盾を矛盾でなくしてしまう手際は本当に鮮やかで、
思わず、そんなのありか!?と叫んでしまいそうになるけれど、
ミステリーの謎解きにおいてそのセリフを言わせたら、
もう作者の完全勝利なのだと思う。

謎解きとしての納得の面白さとは全く別に、
事件の真相にはもやもやさせられた。
犯人には動機があって、被害者には殺される所以があって、
犯罪は計画され、ポアロの存在以外において成功した。
ナイフを12回も刺さずにはいられなかった犯人の思いも、
それを否定しなかった探偵の気持ちも理解できるけれど、
それでも人殺しは罪だ、なんて言うつもりはない。
列車の中で起こったことは明らかに私刑だけれど、
ラチェットのしたことが引き起こした悲劇を思えば、
それを否定する気にはさらさらならない。
ただ、それは犯罪を実行することそれ自体についての話で、
ポアロというアクシデントによって、
わずかな人間に対してとはいえ事が明るみに出た以上、
それを隠匿することは是とすべきではないと思う。
犯人と被害者の間でだけで事が終わったなら、
たとえ結果が殺人という重大事であっても、
それは体育館裏や野原で行われる私刑と変わらない。
汚れた手も反撃で負った傷も、
手を下す責任において当事者が背負えばいい。
けれど目撃した第三者は、その事情を鑑みてはいけない気がする。
第三者を介入させてしまった時点で、
私刑はただの暴力として非難されるべきだと思う。
探偵が無能でなかったことが残念でならない。

公爵夫人のような相手でなくても、
基本的な女性に対する気遣いと、
その実の紳士たちの偏見に満ちた考え方が可笑しかった。

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